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黒魔術師の恋愛事情
【青春 恋愛小説】

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黒魔術師の恋愛事情〜因縁-4

 学校から出た真彦は急いで水田工場跡に向かう。位置的に言えば、学校から見て真彦の家と反対方向にあるそこは、経営不振で潰れた工場で、人が入る場所では無い。桂木智博…奴は本気だ、そう頭の片隅で考えた。
(くそっ!まさか麻里に手ぇ出すなんて…予想できなかった!)
 確か智博は麻里を一回しか見ていないはず。
(しかし小春には手を出すのは難しいにしろ、せめて光輝なら…そうか!奴はそもそも光輝を知らないのか!!)
 光輝が智博のことを知らないのは智博に会ったことが無いから。無論逆も言えるのだ。
(結局自分のミスじゃねーか!くそー!けど絶対に許さねー!)
 真彦は走り続けるのだった。恋しい人を助けるために…。

「麻里!どこだ!」
 真彦がもの凄く静かな工場跡で叫ぶと、辺りの壁から声が跳ね返ってくる。
「あっ!麻里!」
 一つの建物の中に、床に倒れている麻里を見つけることができた。
「おい、麻里、しっかりしろ!麻里!」
「……うぅ〜ん……あれ、真彦君?」
 ゆっくりと麻里が目を開ける。
「よかった…無事か?」 真彦は安堵の声を出した。
「うん…ねぇ、私達何でここにいるの?っていうか、ここどこ?」
「え?」
「それに…『何でロウソクに囲まれてる』の?」
 二人の周りには六本のロウソクが円を描くように立てられ、その全部に火が燈っていた。
「やべっ…体に力が入んねぇ…」
「私も…何で…?」
 今度は助けに来た真彦までも倒れてしまった。全く筋肉が正常に動いてくれない。
「いやぁ、この俺様の慈悲を喜んでくれたまえ、真彦君」
「…智博!」
 倒れている真彦の目の前のロウソクの向こう側に、智博の姿があった。
「お前が優子ちゃんに惚れてたのは知ってたさ…だからこの際だ。彼女の元ヘ送ってやろうと思ってな」
「余計なお世話だ。第一、今の俺には麻里がいるんだ」
「だからじゃないか?」
「?」
「その娘も共に送ってやる俺の気遣いが分からないか?両手に華だぞ?」
「めちゃくちゃいらん気遣いだ、この野郎!」
「自分状態を考えて口を利け。もう何もできないお前らでは止められないんだ。お前ら二人の魂を生贄に捧げ…俺の力を維持させてくれよ?」
 智博は笑みを浮かべていた。

 真彦と麻里は魔法陣の中にいる。それは魂を捧げる魔法陣…五年前、優子の魂を捧げたものと同じものだ。

「…麻里、大丈夫か?」
「…うん」
 小さくだか麻里は反応を見せた。
「あのさ、今の話なんだけど、全部本当なんだ。あいつは俺達の魂を生贄にしようとしてる。黒魔術ってやつさ」
 真彦は話続けるが、麻里は声を出さない。
「でもさ、あいつの思い通りにはさせないから。麻里は絶対俺が守る。俺は麻里が好きだから…だから俺を信じてくれる?」
「…優子って人は?」
「…あいつはもう思い出さ。今は麻里がいてくれればそれでいいさ」
「うん…嬉しいな…最後にそう言ってくれて…」
 麻里の目には涙が浮かんできている。
「おいおい、泣くなよ。言ったろ?思い通りにはならないって。それに、そろそろ『宅配便』が来るころさ…」
 真彦の口元がうっすらと笑った。
「お前、さっきから何を…」
「真彦ー!!」
「お兄ちゃん!!」
 智博の声を遮った二つの声。
「そーら、『宅配便』だぜ?…余計なもんまで付いて来たけど…なっ!」
 真彦は突如起き上がり、智博に向かって回し蹴りを放った。


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