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雪解け
【青春 恋愛小説】

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雪解け-2

「あ〜寒い!!!」
あたしは絶叫にも近い声で叫ぶ。
「だから冬は嫌いなのよ・・・まったく」
放課後。あたしはぶつぶつ文句をいいながら昇降口で柊を待ってるところだった。
「柊・・・遅いなぁ」
柊は先生に呼び出されたとかで、職員室にいっていた。でもあいつはそんな問題を起こすようなやつじゃないから、どうせ頼まれ事かなんかだろう。そんで面倒くさい事を頼まれても断れないんだ。柊はバカだから。
「もうこのまま帰っちゃおっかなぁ」
ぽつりと呟いた。その時
「それはないだろ。夏姫」
背後からちょっと呆れた柊の声。
「マヂ、遅いんだけど」
あたしは怒った顔をつくって振り向く。
「ごめん。学年主任に捕まっちゃってさ」
「また?」
まぁ、予想通りだけど。
「知ってるだろ。あの人話長いの」
いつも、そうだ。職員室に行っては学年主任のおばさんに捕まって、長々と話を聞かされる。そんでその話はいつも決まって、先生たちがどれだけ柊に期待してるかについてなんだ。
「もう、しかとしちゃいなよ。あんなおばさん」
「夏姫みたいにそれができればな。俺も困っとらんだよ」
「柊は、頭いいくせに要領悪いんだよ。バカみたい」
「ひでぇなぁ〜」
柊はヘラヘラ笑って、あたしの頭をポンって叩く。
もう一言いおうとしたけど、やっぱりやめた。“でもそうやって先生に期待されることってあたしにはなくて、ちょっと羨ましくもあるんだよ。”悔しいから、それはいってあげません。柊は自由にしてるあたしが羨ましいって、いうから。そういうあたしでありたいと思う。

「ほら、雪降ってるから。カサ」
あたしは青色のカサを柊に差し出す。ぶっちゃけ今さっき傘立てからパクったやつだけど、気にしなかった。
「ってかそれ、どうせパクったカサだろ?」
柊がカサを受け取りながらいった。それから外に向かってカサを開く。
「とかいってる割に、使うんじゃん」
「まぁ、たまには、な」
柊はそういってたまに、あたしの悪さに付き合うことがある。校舎への落書きとか、ムカつく先生のイスにおもちゃの虫を置いたりとか、些細なこと。あまりにも子供っぽくて、普段の柊なら全くやらないような。でも、あたしは、そうやって柊があたしに付き合ってくれるときが好きだ。いつもは遠くにいる柊が、あたしと同じ事をしてるのに安心する。
「いいのかなぁっ。真面目な緒方くんがそんなことして」
「たまには俺だって、悪いことしたくなるんだよ」
ちょっと子供っぽい柊の笑顔。こんなのきっと、誰も見たことないんだろうな。
あたしはちょっとだけそのやんちゃな笑顔に見惚れた後、自分のオレンジ色のカサを開くと、雪の中をザクザク進みだした。
「柊の弱虫」
柊があたしの隣に並んだのを見計らって、あたしは呟いた。
空を見上げる。雪が降ってる。オレンジ色の傘と、青色の傘が並んで歩いてる。この時が幸せだってあたしは思う。だけど口から出てくるのは、意地悪な言葉ばっかりだ。
「なんか最近、よくつっかかってくるよな」
柊が少しの沈黙の後、いった。
「別に・・・そんなことないよ」
「分かるよ。なんかイライラしてんだろ」
あたしは地面をじっと見詰めて、雪を蹴りながら進む。

――他の事はなんでも分かっちゃうくせに、なんで気づかないわけ?

その気持ちがまたあたしの苛立ちを高める。
柊のせいだよ。あたしがイライラしてんのは。柊が永田さんに告白されたりするからじゃん。
「・・・まぁ、いいたくないならいいけど」
あたしがずっと真面目な顔で黙りこくってたからか、柊はパッと笑顔を作って優しい声でいった。あたしが嫌がってることはいつもすぐ分かってくれて、落ち込んでるときも、悩みあるときも、すぐ気づいてくれるのに。こういうことには鈍いんだね。


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