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歌人〜Utaibito
【青春 恋愛小説】

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歌人〜Utaibito-2

 ハルカはある一室のチャイムを鳴らす。
「はーい」
 中から男の声がして、ドアはすぐに開いた。
「どちら様ですか?…ってハルカか」
 部屋の中から出て来たのは、若い男性…ハルカと同じくらいの年代であろう青年だ。
「こんばんは、『青の十字架さん』?」
「え?…あぁ、あのリクエスト、流れた上に聞かれたか…」
 男は苦笑いで応える。
「ま、入んなよ。寒いだろ?」
「うん、おじゃましま〜す」
 ハルカは部屋の中へと通された。
「ナオヤ、本職の方はどうなの?」
「ん?結構順調だよ。コンビニのバイトから正社員になったからもんだから、仕事の苦労は身についてるしね」
 ナオヤと呼ばれた男は苦笑いで答える。
「そっちも順調そうじゃん?4th.シングルがヒットチャート3位にランクインしたんだろ?」
「うん!今度アルバム出そうって話も有るんだから」
 ハルカはとてもはしゃいでいる。どんなに楽しい仕事の時でも、ここまではしゃぐことは無い。
「あのハルカが今や歌姫だもんな…っと」
 ナオヤはギターを部屋の隅から持ち出してきた。かなり古そうで、何年も大切に使い込まれているような代物だ。
「さぁハルカ、ファンを喜ばせるように、曲作りを始めよう」
 そう言ったナオヤの首には、青い十字架のペンダントが光沢を放っていた。

 曲作りはギター一本とハルカの歌声だけで行われる。時間は掛かるかもしれないが、二人で共に作り上げる曲は最高のものとなる。
 以前、ハルカがこの部屋に大山を連れて来たことがあった。彼女は不思議がっていた。
「彼のギターは粗いのに、何でハルカの歌と一緒だとこんなにも素敵な曲になるんだろ?」
 その時だった。大山が二人の出会いを知ったのは。

「ねぇ直也?」
「ん?どうした」
 ナオヤのギターを弾く手が止まった。
「私、覚えてるよ。直也との思いでの全部を」
「…ハルカ?」
「出会った瞬間や付き合い始めた時とか…私のデビューのせいで別れちゃった時とか…」
 そう…ソロミュージシャンのハルカと謎の作曲家ナオヤ…菊地春香と安原直也は昔付き合っていたのである。
「直也言ってくれたよね。事務所にバレたらそれこそ曲だって作ってやれなくなるから秘密にしてくれって。大山さんになんか土下座で頼み込んじゃって」
「おいおい…そこは忘れておいてくれよ」
 どうやら直也にとって、それは恥ずかしい過去のようだった。
「それだけじゃない。さっきのラジオにリクエストした曲だってそう…私も忘れてなかったよ?それにオーディションに出る時に励ましてくれたり、別れてからも仕事の話とかしてくれたし…」
 何故だろうか…こんなにも涙があふれてくるのは…?
「別れたくなかったな…離れられないもん」
「…大丈夫だよ、春香」
 直也は春香に近づき、そっと頭に手を添えた。
「今はミュージシャンのハルカとして、まだ恋人がいていいって時期でもないだろ?けど俺は待ってるから。お前がもっと仕事の波に乗って、堂々と恋ができるようになるまでな。春香の彼氏じゃなくなったあの時から、俺はずっと待ってんだからよ…」
「直也…」
「この二年間、何人かの女に告白されたけど全部断った。俺にはやっぱ春香しかいないからな…」
 直也の顔は真っ赤に染まっている。付き合い始めた頃はかなり人付合いが悪かった直也が、こんな事を言うとは当時は考えられない事だった。しかし今ではそれも普通の事だ。
「直也は変わったよね」
「俺が?まさか…春香の事が好きなのは変わってないはずだけど?」
 直也はそう言うとペンダントを春香の目の前にちらつかせた。
「これは俺がお前を諦めてない証だ…いつか仕事としてじゃなく、プライベートとしてここに来てもらえるまで、待ってっからよ」
「うん…でも、まだ私は『今の』自分の気持ちは伝えないよ?言ったら耐えられないから…」
「はは…俺も言われたら耐えられなさそう。春香が欲しくなるな」
 直也は短く、強く息を吐いて、何かをふっ切るようにギターを鳴らした。
「さぁ『ハルカ』、再開しようか?私情を挟むのはここまでにしとこう」
「…はい!よろしくお願いします!」
 そこには既に、ミュージシャン『ハルカ』と作曲家『ナオヤ』の姿しかなかった。それが二人それぞれのけじめとしての姿であるのだから。


 数カ月後、ハルカは二枚のアルバムを同時リリースすることになる。一つはそれまでのシングル曲などが収録された『Hs BEST』。
 そしてもう一枚、伴奏は全曲においてギター一本という異色のカバーアルバム。ギター演奏として特別にナオヤが参加したこのCDのタイトルは『OurMusic』。その中には二人の思い出の曲が詰められている。もちろん、あの『カントリーロード』も…。


END


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