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走馬灯
【その他 官能小説】

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走馬灯-25

雨。フロントガラスの上をしずくが横に滑っていく。洗車が行き届いているのだ。当然小林のためではない。後ろの革シートは何も置かずに、光沢がありツルっと滑りそうなぐらい、きれいなまま。車、温泉、数少ない趣味の内の2つか。この大切な車、アクセラを汚して死ぬわけには…



………

……………。

まずい。





俺はどのようにして死ねばいいのだろう。いきなり死んでも疑いは田宮にふりかかる。動機は調べ上げれば充分なほど出てくる。田宮は罪をかぶらずに俺だけ死ぬ方法はないか。全てを託す話をしたあと、行方を眩ます…か。それが良さそうだ。実行するなら早めにしよう。最後のカーブも近い。

「田宮、ちょっと停めてくれねーか。」こちらを怪訝そうに見るかと思いきや、焦ったように、びっくりしたようにこちらを見る。明らかにおかしな所作だ。「どうしましたか?」間髪は入れない。「話があるんだ。」眉を一瞬つり上げ、田宮は唾を飲み込んだ。覚悟?決意?そんなような見えないものが険しい顔に見えた気がする。

「話とは?」
「事実を話す。」
「事実。」
「そう、事実だ。」

車は見晴らし台のような場所に止まった。晴れてさえいれば、ここから市街地を展望できそうだ。生憎の雨は名残を消し去るにはちょうどいい。涙は流さなくとも天が代わりに泣く。降りた俺は降りしきる雨の中を歩き出す。傘などいらない。今から人を一人殺すのだから。作為と共に。

田宮が遅れて、ポケットに手を突っ込みついてくる。
「タバコ。」
「…。」
「タバコをくれないか。」「はぁ。でも…。」
「いいから。くれ。」

田宮は小林が吸っているところを見たことはない。端からは、どこか様子がおかしいのだろうが、俺は吸う。俺は俺だからだ。クールのキングにデュポンの高く響く音はよく似合う。そう思っていたし、これからもそれは変わらない。もうヘビースモーカーは引退か。終末の味をせいぜい楽しみたい。

肺に染み渡るメンソールがうまい。仕事に区切りをつけた後の味。区切りをつけるのはこれからなのに幸せだ。だが小林の身体は拒否反応を起こした。ヤニクラだ。こんな一般的な事象まで体感できるとは。走馬灯は緻密な部分まで演出が行き届いている。フィルターに髪から流れた雫が染み込み、敢えなく喫煙は断念した。

時は来た。「かおりは俺がさらった。」突然切り出された田宮は、もちろん知ってはいたものの容疑者、被告人の自白には驚いただろう。田宮は後ろにいて、表情は見えないが、恐らくは強張った顔をしている。

「田宮には本当にすまないことをしたと思っている。」ギリっと歯をくいしばる音。続けてみよう。

「かおりはきっとお前を待っている。いついかなる時も、お互いにしこりを感じていたんだ。記憶をなくしても、お前に対する想いをなくさなかった。元より俺の付け入る場所などなかったんだ。」

「俺はお前とかおりの生きるこの場所で、人として存在していたことを悔いている。だからこの世から…」


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