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走馬灯
【その他 官能小説】

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走馬灯-22

もうだめだ、より、まだだめだ。その方が『まだ』望みがあるというもの。 諦めは自らの歩みを止めるだけでなく未来を連れてこない、本当にやっかいなものだ。望む限り可能性はある。滑り止めの大学で出題された英作文の問題は今でも頭を駆け巡るから面白い。率直に言って気に入ったのだ。

結果に落ち込んでいた俺。どの大学に行くかではなく、その大学で何をやるのか。選ばざるを得なかった滑り止め大学の校門をくぐった時に、高校時代の恩師の言葉が何回も何回も…こだましていた。それは春と言えどとても寒い日、身も心も寒い日だった。

大学生活も終盤にさしかかり、就活が始まった。大学の名前でニヤニヤしながら首をかしげる人事担当。「どこにあるのですか?この大学は。」不採用コース行き。提出書類の時点で門前払いしてくれればいいものを。さぞかし高学歴な方々の集まりなのだろう。そんなことが繰り返される就活に嫌気がさしていた。

大学の名前はその大学生が背に負うには大きく広すぎる。東大卒の数少ない友人のあだ名は『東大くん』。悲しすぎる。アイデンティティーはどこにあるのか。どのように生き、何を専攻してきたのかが分からない。能力は高いのだろうが、人として大事な部分は随分と見落とされがちになるだろう。

中でも中卒の社長が一代で立ち上げたこの会社は、一際輝いて見えた。恩師の言葉、入試の問題を身を以て体現している、そんな気がした。なりふりは構わず、心からぶつかろうと考えられた。アイデンティティーを発揮できる、そう信じた。しかし、世間は異端児の存在を簡単には許してくれなかった。社員も人の子だったからだ。



出来る限りの笑顔は得手不得手。余裕と映るか安心を与えるか。勝因・敗因はいつの時代も結果論。当たればラッキー、当たらなければアンラッキー。とりあえずは落ち着き払う。冷静に、淡々と、事を運ぶべきだ。頭をフル稼働させ、予期し、備えるべきだ。プレゼンに似ている。



いつもは運転席に乗っていたアクセラ。今日は助手席に回ろうと思う。別に警察でもないが、運転席側からノックしてみた。余程驚いたのだろう。外からでもバッとハンドルから離れる音が聞こえた。「入るよ。」そう伝えると回り込んで助手席から乗った。決定力のある言葉には意外に抗えないのが人情だ。

車は静かに走り出した。頭をちょこんと肩に乗せてみる。身を固くした田宮の緊張は少しずつアイスが溶けるように和らいでいった。


「さっきはごめん。」

「かおりのこと、よく分からなくなったんだ。」

多分、『どうしてこんな事態に陥ったのか』『どうして希望をもたせるのか』ということなのだろう。相も変わらず答える術をもちようがない質問だ。生半可な言い分は、元より猜疑心の強かった自分の最高警戒態勢バージョンには通るはずもない。頭がよくなりたい。


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