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Dear.
【悲恋 恋愛小説】

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Dear.First meeting-2

「…すまん晃司、殴っていいか?」
「何でだよ!意味わかんねーよ!感謝はされても殴られる筋合いねーよ!」
俺が右手で拳を作り振り上げれば、晃司がオーバーなくらいに頭を抱えてしゃがみこむ。
そんなコントのような一連の動作を腹を抱えて見ていた小百合は、「どうどう」と俺の右手を押さえて、今更ながら仲裁に入ってきた。
「まぁまぁ、賢ちゃん落ち着いてよ。紹介って言っても実際紹介すんのはあたしだから。晃司に女紹介出来る甲斐性がある訳ないでしょ」
チラと晃司を一瞥して、短い溜め息と共に小百合は小さく首を横に振った。
それにブスくれる晃司を放置し、小百合は話を進める。
「あたしと同じ高校出身で西山志穂っていう子なんだけど、すっごいいい子なの!友達からでもいいから付き合ってみない?」
「え…うーん…」
あまり乗り気のない返事に、小百合の顔が笑顔から一変、怒ったような困ったような表情に変化した。
でも、乗り気にならないのは仕方がない。今までだって女性関係での良い思い出なんてないに等しいし、況してや会った事もない女性といきなり付き合えなんて、いくら友達からといっても抵抗がある。
「…んー…じゃあ、一回実際会ってみて…それから…決める」
「よしOK!それで決まり!じゃ、今日の夕方早速会わせるから、予定入れないでね!」
矢継ぎ早にサクサク予定を喋ると、授業があったんだと晃司の腕を引っ張って去って行ってしまった。
嵐の後の静けさ…ではないが、静かになった周りの雰囲気を受け入れる体勢が整っていなかった為、いきなり静かになられると、その嵐の芽が去って行った所をただ見つめる事しか出来なかった。
黙ってその場に立ち尽くせば、先程聞いた名前が蘇る。
西山志穂。
ごくごくどこにでもいるような普通の名前。
当たり前だが、名前だけでは本人を特定する事なんて到底不可能。俺にどれだけ妄想力があろうとも、それは無理だ。…が、やはり想像はしてしまう。
目は、鼻は、口は、髪の色や形、長さ、背丈や体型。あれやこれやと想像すれば、何だか変に緊張してきた。
小百合が言うくらいだからいい子なのだろうとは思うが、もしそれが二重人格だったら?小百合が見ていたのは表側で、実はすっごい凶悪な裏側があったら?その裏側がもうものっすごくて、俺が今まで付き合ってきた女達の技(笑)が全てMIXされたようなのだったら?
…なんて、それこそあり得ないような想像を延々と繰り広げているうちに…、時間は刻々と過ぎていったのだった…。


***


PM5:30
大学門付近。
「あっ!賢ちゃん、ごめんお待たせ…って、どうしたの?そんなイジけた顔して」
笑顔で手を振っていた小百合の顔は、俺の顔を見るや否やみるみる曇る。
「いや、ちょっと、ね」
晃司と小百合が去った後、何故かそこに突っ立って妄想を繰り広げていた俺は、自分も授業があった事をスッキリと忘れていた。
まぁ、授業の一つや二つサボったところで特に支障はないのだが、すっぽかした相手が悪かった。
『熱血クソメガネ』という誉めているのか貶しているのかわからないあだ名を持つ心理学の御堂教授。
こいつの授業をすっぽかしでもすれば、それはもう夏休みの宿題みたいな量のレポートを提出しなければならないにも関わらず、作成期間はたったの3日しか与えてもらえない。レポートも提出しなければ単位も貰えず、従ってこの授業の出席率はほぼ100%に等しい。
そんな奴の授業をすっぽかした俺は、まさに今さっき大量のレポート提出を突き付けられたばかりだ。そりゃイジけた顔にもなるというものだ。
「わぁ〜…バッカだねー賢ちゃん…。まぁでも今回は何か変な罪悪感あるから、晃司と一緒に手伝ってあげるよ」
その言葉に若干心の荷物は軽くなったが、それでもあの量はないだろう。
「もうっ、今から会うんだからそんな顔しないの!ホラッ!しゃきっとする!」
小百合が俺の背中を容赦なくバンバンと叩きつける。
「痛っ…わかった、わかったから叩くな!…ってか小百合1人?晃司は?」
レポートで頭がいっぱいで気が付かなかったが、そういえばあのうるさい晃司が見当たらない。
「あぁ、晃司?何か用事あるから後から合流するってさ」
「ふーん?」
「とりあえず行こ!もう待ってるかも」
そう言って手を引く小百合の足早さに軽くつんのめりそうになりながらも、何とか堪えて、その彼女が待つ目的の場所へと歩を進めた。


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