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Dear.
【悲恋 恋愛小説】

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Dear.-2

「あたしの目に、狂いがあるって言いたい訳?」
自信の溢れた、とても堂々とした言葉に軽く感動すら覚えた。
この人は真貴子とは違う。この人は大丈夫。
それから彼女と付き合い始め、事は順調に進んでいた。
年明けには初キスを済まし、バレンタインには童貞卒業。
付き合ってもさばさばした態度は変わらず、其処がまた好感を持てた。
そんな、「女」というものの意識が変わり始めていた頃。
学年が1つ上がり、彼女もまた引退を迎える季節となった。
男バスも3年が引退し、それに伴い、俺にバスケ人生で初のスタメンレギュラー入りが実現。
彼女も大層喜んでくれ、まさにこれから薔薇色の高校生活がスタートすると内心浮かれていた矢先の事だった。
万年補欠の俺が、いきなりのスタメンレギュラー入り。急激に上がった注目度は、大きな大きな歪みを生む。
最初の歪みは、彼女の小さな変化だった。
もともと電話やメールは多い方であったが、その電話やメールが異様に増えた。
内容は『今何してる?』『どこにいる?』『誰といる?』といった些細な事柄ばかりなのだが、これが1日中続くってんだから堪ったもんじゃない。
「絵美さん、最近変ですよ。どうしたんスか?」
あまりの多さに堪らず本人に問えば、彼女は哀しげな瞳で、
「…だって、最近賢悟モテ始めたから、他の子と浮気しちゃうんじゃないかと思って」
と言う。
自分で言うのも何だと思うが、俺は恋愛に関しては結構一途であると自負している。
その俺が浮気。あり得ない。
「心配しなくても、俺が好きなのは絵美さんだけっスよ」
我ながらクサイ台詞だったと思う。しかしこの時は必要な台詞だと思った。
が、そう思ったのは俺だけだったらしく、彼女は沢山の女にこの台詞を言っているに違いないと、逆に不信感を募らせていったのだ。
そして、彼女の行動はエスカレートしていく。
1日の電話は悠に50件を超え、メールは軽く200件を超えた。
学校の休み時間は彼女の教室に来いと言われ、授業と授業の合間の短い休み時間でも彼女の教室に赴き、一時それが名物にまでなった事もあった。
毎日のように一緒に下校し、彼女を家まで送り届けると携帯が鳴り、俺が家に着くまで通話しそれからメールが来る。
それはそれは、ひどい“束縛”だった。
人生2人目の彼女にして、人生初の束縛体験。
俺は今まさに愛憎渦巻く昼メロドラマを擬似体験しているような気分だった。
もはや精神状態は最悪。溜まりに溜まったストレスが限界を迎え、ついには彼女が応援という名の監視で見ている部活中、盛大に嘔吐して意識を飛ばしてしまっていた。
気が付いて目を開けると、一面に白の天井。独特の薬品臭から保健室にいることがわかった。
傍らには、心配そうに見つめる彼女。
…この人は大丈夫。そう思った。…けど…
別れの言葉は、割とあっさりと口から流れた。
「…すんません、別れて下さい」
簡単な言葉だったが、それ以上何を言ったら良いかもわからなかったし、言ってもややこしくなるだけだろうとシンプルにまとめた。
暫らく彼女は俯いていたけれど、それから小さく頷いてくれた。
今思えば、女運の悪い俺にしては、彼女は結構いい女性だったと思うが、その頃は俺もまだガキで女性の扱いも手探りだし、将来を考えた恋愛とか、本当の恋愛とか、目先の事柄ばかりで精一杯だった俺にはそんなのは全然頭になかったのだ。

その後も2〜3人の女性とお付き合いというものをさせていただいたが、金癖が悪かったり(勝手に俺の財布を持ち出して買い物してたり)、浮気性だったり(8股中の6番目と言われたり)と、大学に入学してからも女運の悪さは健在だった。

そんな俺を見兼ねた友人が、1人の女性を紹介してくれた。
大学2年の初夏。

この出会いは、運命だったと思う。


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