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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-84


2年前、独りの彼女を乗せた船は大時化の中、阿嘉島へ向って進んでいた。


「今日は船出るのかなぁ…1週間前に物凄い大きな台風が通過して、昨日まで全船欠航だったんだよ。」

月をモチーフにした店の看板が気に入り、なんとなく入った国際通りの外れのカフェで、彼女は独り、その日の行動をどうするか考えていた。
店主は気の良い若い男性で、東京からの移住者だという事だった。彼は、独り旅の千鶴に陽気に話しかけ、阿嘉島のあるビーチで夏季限定のバーを開いていると語って聞かせた。既にその時期は過ぎていたが、阿嘉島の海は別格だから、時間があるのなら行ってみると良いと、彼女に勧めてくれたのだ。
しかし、1週間前に大型台風が通過した名残で、海が荒れ、その前日まで船が欠航していたとの事だった。
それでもその阿嘉島に興味を示した千鶴に、彼は港の電話番号と宿を紹介してくれた。そして、行く気になったら連絡が欲しいと自分のカフェの名刺を渡し、最後に「気楽な独り旅を楽しんでね。」と付け加えた。

特に行く当てもなかった彼女は港に連絡を入れ、船の出港を確認した。すると、1週間以上欠航になっていた事もあって、高速船は欠航になっていたが、普通のフェリーは運航するとの事だった。
彼女は阿嘉島行きを決め、先程のカフェに電話し、続いて宿に連絡を入れた。
通常、3日前に予約を入れないと宿泊できないのだが、カフェの店主の口利きで泊まれる事になった。
阿嘉島は不便なところにあり、宿泊客の食事の調達に時間がかかる。だから前もって予約を入れておかないと泊まれないとの事だ。

「今日の今日だから、凝った料理は作れないけどさぁ…って別に普段から凝った料理を作ってるわけじゃないさぁ…アッハッハッハッハ…お待ちしてます。気を付けて来てくださいね。」

と、宿主は高らかに笑って彼女の出航時間を確認すると電話を切った。


港は出航を聞きつけた人でごった返していた。
知らない者同士が口々に出航の喜びを口にしながら、それぞれ大荷物を整理をしていた。赤黒く照った頬と独特の温かい訛りが沖縄の人だという事を物語っていた。

「これ以上船が止まってたら、みんな飢え死にしてしまうさぁ、アハハハハ…」

と、明るく話す中年の男性やその声に同意しながら笑う周りの人の顔にも、生活に密着した緊迫感が滲み出ていた。
その中に紛れて、色白の肌でポカンとしたバカンス面をしている観光客が滑稽に見えた。そして、自分も同じく暢気な顔をしているのだろうと思うと、小さな笑いが胸にこみ上げた。

外海は思った以上に荒れていた。大きなフェリーの広い甲板に白い波が何度となく打ち上げられ、風の音とエンジン音の合間に波を頭から被った人の叫び声が聞こえた。

千鶴は船首に近い甲板の席を陣取り、波飛沫を避けながら、エンジンと風が織り成す轟音の中、独りじっと進行方向を見つめていた。
甲板から照り返す光を全身に受け、ジリジリと肌が焦げ付くような感覚があったのを今でも覚えている。

船は波を超えるたびに海面に叩きつけられた。まるで、波の上を飛び跳ねながら進んでいるようだった。その激しい揺れに体を合わせないと、腰に大きな衝撃を受けた。それでも彼女はじっと船の行き先を見つめ、何かに挑むような面持ちでそこに座り込んでいた。


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