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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-8

 夏に近づくと、サーファー人口が増えるのと同時に初心者サーファーが急増する。すると必然と争いも増えるのだが、彼女は、そうした他人の酷い怒鳴り声を耳にする度に、結果的にルールを守らなかった方に問題はあるとしても、前乗りされた方も、少し周りに気配りをして欲しいと思うのだった。
 つまらない罵声を聞くために、海に来ているサーファーなどいないのだ。



 何本か波をやり過ごしているうちに、沖から彼女が乗れそうな小さめの波が来た。

 再び彼女は板を岸に向け漕ぎ始めた。
 今回は、その波にトライしている人はいないようだった。それを確認すると、一層早く腕を回し、板のスピードを上げた。
 波が板を押す強い力を感じてから、もう一度強く板を漕ぎ、彼女は自分の板に手を突いた。
 それと同時に足を胸に引き寄せ、板の上に乗せた。そして瞬時に左右の人影を確認した。その波は、どちら側にも面があり、誰もいなかった。

 彼女は慎重に立ち上がりながら背中側へ体重を移動し、バックサイドのエッジを波に噛ませた。
 板の先端がゆっくり左側へ向きを変え、彼女の視界は板の先端より少し先の海面に固定された。
 あまり大きな波ではなかったので、失速しそうになったが、体重を少し前に移動し、板を波面に合わせスピードを保った。

 視界の先の波が崩れるのを確認すると、彼女は、後ろ足を中心に板を逆側へ方向転換させた。しかしその頃には波のパワーは完全に失われ、視界の片隅で流れていた風景も停まった。

 波を諦めて、板から降りると水の深さは腰ほどの高さにあった。
 彼女は再びアウトを目指して、板の上に飛び乗った。



 前回同様、1時間ほどで裕美は上がった。
 気温が暖かくなっても海水温はまだ低いので、あまり体を冷さないように冬の海は1時間前後と決めていた。
 不思議なもので、サーフィンをしていると楽しいからなのか、海から上がってから着替える前までの体感温度が低すぎるせいなのか、その気になれば、夏同様に2時間以上海に入っていることができる。
 しかしそうはいっても気付かぬところで、体はしっかり冷えてしまう。
 彼女は、美容と健康のためにも冬は1時間前後、夏は2時間前後で1度は海から出ると決めていた。
 どこぞやの健康情報番組や体験エステのエステティシャンに、女性は特に体を冷やしてはいけないと言われていたからだ。


 その日、慎治は裕美が着替えを済ませ、板をケースに仕舞い込んでも上がってこなかった。

 車の中で暖まっていても良かったのだが、なんとなく、慎治の波に乗っている姿を浜辺から見たいと思い、サーファーが見えるところまで行って上級者達の波乗りを見学していた。
 
 全てが穏やかだった。
 
 風も雲に隠れた太陽も波も、海の中に浮かぶサーファー達も穏やかに見えた。

 海は空と同じ灰色をしていた。
 頬をすべる、なんとなく、春の匂いのする穏やかな風が、体が芯から冷えている事を気づかせた。


 15分に1本くらいの間隔でセットと呼ばれる、他の波より少し高めの波が来ていた。
 海の中の慎治は、砂浜にいる裕美には全く気が付いていない様子で、腕を組みながら沖を睨みセットが来るのを今かと待っていた。
 少しすると沖からセットが入るのが裕美にも見えた。
 サーファー達が一斉に、波が最初に崩れるピークの方へ移動し、だんだん近づいてくる波にあわせながら、板を裕美の方に向けて漕ぎ始めた。

 運よくピークからゲットできたのは、慎治だ。


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