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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-61



 高沢が電車で帰るというので、慎治も電車で帰ることにした。
 瓶ビール3本をほぼ独りで空けたが、全く酔っていなかった。
 緊張していたのだ。
 しかし、非常に気分のいい緊張感だった。
 それほど仕事人間でも会社人間でもないつもりだが、実際に役員と直接話せたのは、気分が良かった。もしかしたら、自分が思っている以上に評価されているのかもしれないと、図に乗った考えも浮かんできたが、すぐにその思いは取り払った。
 図に乗って失敗するのが常だったからだ。仕事を始めるようになってからは、そういうことのないように、人一倍気を遣っていた。

「結婚かぁ…」

 心の中で小さく呟いて、ため息を漏らした。

 結婚するにしても、もう既に相手はいない。
 確かに、この大きなプロジェクトに参加できることは嬉しいし、ロスでの生活も魅力的だ。
 しかし、10年近く日本に戻れないとなれば、誰かついてきてくれる人が欲しい。それだけ長い期間、海外で、独り寂しく生活をするのも、できれば避けたいと慎治は思った。

 考え方によっては、金髪美人選び放題ともとれるのだが…。

 彼の1番上の兄も、初めての海外生活を前に、今の義姉と結婚した。
 彼が28歳になったばかりの春だった。それから彼は、10年以上、外国の様々な都市を転々とし、昨年日本に戻ってきたが、海外赴任が長くなることを予想していた兄は、おそらく、その前に結婚しようと決めていたのだろう。
 義姉を初めて紹介された時、彼女とは学生の頃からの付き合いだと聞いたが、慎治がそれまでに兄の彼女として紹介された女性の中に、義姉の顔はなかった。
 初対面で意味深長な笑みを浮かべて、挨拶をした弟の脛を、兄がテーブルの下で蹴ったのを、今でも覚えている。

 海外生活を送るには、義姉は適任だった。
帰国子女だった彼女は、英語の他にフランス語も堪能で、外国での生活にも慣れていた。両親の仕事の都合で、中学までフランスで暮らしていたらしいのだ。兄がアメリカへ転勤になると聞いても、未開の地への好奇心こそ持っていたが、そこで生活することへの不安は、あまり感じていないように、慎治には映った。

 そういうことを考えると、自分も帰国子女やそれ相応に海外での生活に慣れた女性と結婚した方が、良いような気がしてきた。

 旅行に行くのと、そこで生活するのとでは大きく違う。

 しかも慎治が住むことになるのは、おそらく、ロス郊外の田舎町になるだろう。そうなると、車の運転ができる女性がいい、英語が話せる子がいい、好奇心が強く、聡明な女性がいい、できれば影から自分を支えてくれるような子がいい、もっと言うならサーフィンをする子か、体を動かすことが好きで、彼のサーフィンに付き合ってくれる女の子がいい…。

 考え始めれば、その条件は止め処なく出てきた。
 そして、それを彼は楽しんでいた。
 誰か適当な人物がいないか、独身の女性の名前を思い浮かべた。

 ふと、「山上裕美」の名前が浮かんだ。

 彼女ならサーフィンもするし、ロスに住めるとなれば喜ぶかもしれない。しかも非常に感じのいい子だ。英語が得意かどうかは知らないが、頭もよさそうだ。と、まだ2度しか会ったことのない女性のことを、勝手にあれこれ想像し始めた。

 そして気が付いたときには、携帯から彼女に「今週末海に行かない?」と誘いのメールを送っていた。

 短絡的な自分が滑稽だったが、また裕美と海に行くことを楽しみに思っている自分もいた。

 結局その週末は、2人の予定が合わなかったので、慎治は独りで海に行った。
 そして次の週末に彼女と一緒に海に行くことにした。


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