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欲望の代償
【ミステリー その他小説】

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欲望の代償-3

 与党は鷲山氏の献金問題を追及するプロジェクトチームをつくり、鷲山氏の地元に乗り込んだ。民生党北海道第9区総支部には平成15年からの5年間で、選挙区内の道市町議会議員42人から総額1650万円の個人献金があったことがわかった。献金はすべて12月25日に行われ、金額もほぼ同額で鷲山氏個人の資産を原資にした可能性がある。政党支部への個人献金は年間1000万円が限度で、鷲山氏が地方議員らに資金を渡して個人献金の実態を隠した疑いがもたれている。
 さらに9区総支部の献金は議員の歳費に応じて「議員党費」として徴収しており、他の総支部も含めて全員が寄付金控除証明書の発行を受けている。実態は党費なのに寄付金として所得税の寄付金控除を受ければもちろん脱税である。発行を受けた証明書は1枚残らず総務省に返還しないと、使用されたという疑惑が残る。

「編集長、与党のチーム、結構追及してますね」
「そりゃ頭が村井吉隆だからな」
 村井は大阪国税局調査部長、東京国税局直税部長、国際金融局調査課長を歴任した国税のプロである。そしてこの頃から、水面下でさまざまな情報が飛び交い始めた。まず7月18日、国税局の主任が北海道に渡ったという情報が飛び込んできた。目的はまだ定かでない。また東京地検、札幌地検、国税局が秘密裏に極秘会議を行ったとの噂が伝わってきた。どうやら東京地検ではなく、マークしているのは札幌地検と国税局のようだ。さらに約1週間後、鷲山氏が他人名義で所有している部屋からウラの献金者名簿らしきものが見つかったという。徹夜で解析作業がいま行われているらしい。

「ビミョーだな。容疑はほぼ真っ黒だけど、総選挙の前ですからね」
「しかしよ、脱税疑惑のあるヤツに国の予算をつくらせる気か? それに民生党が政権取ったら官僚のトップは全部交代だぞ」
「それは正論ですけど、テレビがうるさいだろうなあ。国策捜査だって」
「なにやら霞ヶ関でももめてるらしいしな」
「何を?」
「またいつもの縄張り争いだよ。どこが主導権を」
「またですか? だからテレビに叩かれるんだよなあ」

 俺たちは他にも気になることがあった。というか、じつはいちばん気になっていたことだ。事件の当事者である会計責任者と公設秘書の所在がまるでつかめないのである。鷲山事務所の説明によると、会計担当者は元気に出勤しており、公設秘書は解雇したあとは所在がわからないという。この問題をスクープとして取り上げたのは雑誌「ストレート」である。

「奥さんが毎朝犬と散歩する姿をよく見かけたんだけどね。どこに行っちゃったんだろうねえ」(公設秘書の近所の主婦)
 記事によると、自宅は雨戸とカーテンで閉じられ、本人だけでなく家族の気配も感じられなくなったという。
 一方の会計責任者は、交通事故に遭い重体に陥っているとの噂まで飛び交った。鷲山事務所も入院という事実は認めたようだ。
「少なくとも元気で出勤してるは嘘ですね」
「うーん、可能性としては、ほとぼりが冷めるまでオーストラリアなんかに家族ごと待避させているとかかな」
「あ、前ありましたね、オーストラリアって」
「ストレートの編集部には民生党から圧力がかかったらしいぞ」
「しかし鷲山事務所って、議員と秘書が家族ぐるみで付き合うほど仲がよかったんでしょ。解雇するにしても、その前にいろいろ聞きますよね。でも6月の記者会見思い出すんですけど、本人と会話してたら何かしら本人の言葉をあそこで言うと思うんですよ」
「確かにあの会見聞く限り、事件後に2人は会ってないな。まあ鷲山が首謀者なら聞く必要ないだろ。秘書は悪役を演じてくれればいいだけだ」

 俺たちにはもう一つ気になることがあった。偽メール事件で亡くなった永井元議員のことだ。事件当時から、永井元議員は民生党内の勢力争いに巻き込まれて利用されたとの根強い噂があった。当時の党首は若手で右派の前野、対中強硬派だ。寄り合い所帯の民生党には当然左派も存在する。意外かもしれないが、党内の実力者はじつは親中派が多い。


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