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『夏の終わりの日曜日の午後』
【青春 恋愛小説】

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『夏の終わりの日曜日の午後』-1

湿った風が、頬を優しく撫でていく。その感触が心地いい。
僕は一人堤防に座り、遠くの海を眺めていた。こんなにいい天気なのに、釣り人すら一人も居ない。
遠くへ行くにつれて、段々と薄くなる、空の蒼。
遠くへ行くにつれて、段々と濃さを増す、海の青。
その二つによって創り出された水平線。その線は、溜め息が出るほどに、真っ直ぐだった。真っ白なノートの一ページに、新品の定規と、削りたての鉛筆でひいた線よりも、ずっとずっと真っ直ぐ。その水平線の真っ直ぐは、素直で、誠実で、優しい真っ直ぐだった。僕はそれを見ていると、何故か不思議な気分になった。そしてその不思議さは、決して不快なものではなく、むしろ僕を心地よくさせた。水平線をじっと見ていると、まるで僕までもが、真っ直ぐに正されていくかのように感じられた。けれど、結局それは、錯覚でしかないのだけれど…。
大人になる、ということは、どういうことだろうか。ゆらゆらと歪んでいたものが、真っ直ぐになっていくことを言うのだろうか。
真っ直ぐだったものが、変化し、いびつに歪んでいくことを言うのだろうか。
もし答えが前者なのだとしたら、僕はまだまだ未熟な子どもだということだ。
もし答えが後者なのだとしたら、僕はもうどうしようもなく大人になってしまったということだ。
あぁ、解ってしまった。さっき感じた、不思議さの正体。憧憬。僕は憧れたんだ、水平線の持つ、その真っ直ぐさに。自分の心の中の風景にこんな真っ直ぐな線を描くことは、僕にはできないから。だから僕は、まるで中学生がテレビの中のアイドルの煌めきに憧れるように、景色の中の水平線の真っ直ぐさに憧れた。でも、その憧れの中にこめられたいくらかの嫉妬を見逃すことができるほど、僕は自分に寛容になれない。
…ヤメだ。
僕は苛立ちをぶつけるように力をこめて立ち上がった。
こうして広い海を眺めていれば、いくらか落ち着いた気持ちになれるかと思ったが、どうしても上手くはいかない。ナーバスになっている、と僕は思った。もっと気楽にならなくてはいけない。


結局、部屋に戻ってきた。またベッドの上に寝転ぶ。
『好き…』

そんなこと、急に言われてもなぁ…。
突然の告白を受けてから、もう二日経つ。未だに、その答えを出せないでいる。同じゼミの仲のいい友達。でもそう思っていたのは僕のほうだけだったみたいだ。彼女は始めから僕のことをそういう感情を持って見ていたそうだ。嬉しいと思う反面、どこか騙されたような気分にもなる。僕は彼女を友達だと思っていた。彼女も僕のことを友達だと思ってくれていると思っていた。その信頼にも近いものが、裏切られたような。僕と彼女の間に存在した(と僕が思い込んでいた)友情は、すべて欺瞞だったのかと。
「…。」
寝返りを一つ。
僕は携帯を取り出した。電話帳を開く。三島つばき090XXXXXXXX。発信ボタンを押す。
Rrrrrrrrrrrrrrr…Pi
『もしもし。』
「もしもし、つばき、俺。今、暇?」
『あぁ、暇って言えば暇だけど。』
「今から飲みに行かねぇ?」
『はぁ?まだ昼間だぞ。』
「いいから、行くぞ。今からお前んちに迎えに行くから。」
強引に話を進めて勝手に電話を切った。


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