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缶コーヒー
【青春 恋愛小説】

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缶コーヒー-9



 今日T大通りで良太と会った。私はどうしてよいか分からずにいた。良太は友達の輪から抜け出し私のもとへ来た。
「ねぇ、なんでだよ。なんでもう二度と会えないとか言うんだよ。弟だから?そんなの関係ないじゃん。」
胸が痛くなる私。
「だってどうしていいか・・・。」
「あんなに気持ちをぶつけ合ったじゃん。初対面だったし別に思いつきでやった行動だったけど美紀に会えて嬉しかったんだ。いろんなことを美紀は教えてくれた。それなのに、もう一生会わないとか、そんなのおかしいよ。美紀にとってはどうでもいい出来事だったかもしれないけど俺にとっては大切な時間だったよ。一生忘れないと思う。」
「ごめん。私も同じ気持ちだけど、恐い。壊したくない。始まらない方がいいのよ。」
そういうと私はまた猛ダッシュで駅まで行って地下鉄のホームに降りた。ホームで一休みする。十一月なのに薄っすら汗をかいてしまった。心臓がまだドキドキいっている。

 今日も家に帰っても誰もいない。一人ボンヤリとテレビを眺めてた。すると、久しぶりに母から電話があった。
「美紀ちゃん、元気にしてる?」
「元気だよ。平気。」
「ねぇ、美紀ちゃんうちの高校生の息子が、良太があなたに家庭教師に来て欲しいって言ってるんだけど・・・。やってくれるわよね?」
「私が良太と会ったこと知ってるの。」
「えぇ。嘘つきババアって言われちゃった。子どもいるんじゃんって。」
「ん。あの人口悪いから・・・。気にしないようにしなよ。」
「美紀ちゃんありがとう。でもそれはママの方がわかってるわ。ねぇ、ママの住所わかるでしょ。それじゃあ明後日からお願いね。」
「ちょっと待ってよ。なんで相談もなしに一人で決めちゃうの。私の意見は無視?お母さんの新しい家庭なんて見たくない。」
「美紀。」
「もういい。行かないからじゃあね。」
ピッと電話を切った。
良太には会いたいけどどうしていいかわからなかった。会えばもっと苦しくなる恐くなる。

 私は久しぶりに拓ちゃんの部屋に行った。良太や母との出来事をただ伝えたかった。
「拓ちゃん。」
「おぉ、美紀。」
少し戸惑った顔で拓ちゃんが答えた。
私は、この三週間であった事を上手には出来なかったけれど残さず伝えた。
拓ちゃんへの想いは恋ではなかったと気づいたことも。
拓ちゃんはそれを聞いて
「美紀って昔からそうだよね。何でもかんでもあった出来事をいちいち報告する。別に美紀の俺への想いまで報告しなくっていいからさ。なんか複雑じゃん。」
「ごめん。」
「別に謝んなくっていいよ。それが美紀の本当の気持ちだろう。少しは大人になったみたいだし安心したよ。ちゃんと大学で友達出来てるか?」
「うん。まぁそこそこ。」
と少しうそぶいた。
「私達、新しい関係で一緒にいられるね。今まで私、拓ちゃんに求めることしかしてなかった。」
「じゃあ、今度から助けてもらうよ。」
そう言って拓ちゃんは台所へ行ってリンゴを二個持ってきた。ベッドの上でかじる。
「ねぇ、ベッドの上でリンゴ食べるの禁止じゃなかったっけ。」
私は笑って言う。
「今日だけ特別。美紀が大人になった記念。」
拓ちゃんも笑う。
「ケーキがよかった。」
「贅沢言わない。」
拓ちゃんが怒ってみせる。
「ふふ。ありがとう。リンゴが一番だよ。」
それから聞こえないような声で
「これからも、よろしくね。」
と小さく呟いた。


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