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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつて「茅野ちゃん」かく語りき-4

重たいドアをよいしょ、と開けて電気を点ける。一人暮らしも3年目ともなると、誰もいない部屋にも大分慣れてきた。あたしの家は兄弟も動物も多くて、「ただいま?」を言う前から誰かしらがまとわりついてきていた。
「ただいま」
あたしの小さな声は、がらんとした部屋に吸い込まれて消えた。
……はあ。九官鳥でも育てようかな。くすん。
『ピンポン』
「は、はあいっ」
あたしが寂しいなと思ったとき、すぐに現れてくれる不思議な人。
ドアを勢いよく開けると、危うく藤川さんの鼻に当たるところだった。あたしと違って、すっと通った鼻筋。
こんなんにぶつけたら大変じゃ。弁償できんし。
「ごめんね、急に」
少し息が上がっている。顔にばかり気をとられていたが、よく見るとお店の恰好のままだ。
ちょっと、浮くじゃろー。そのペンギンスタイル。
「どしたんですか?そんなに慌てて……」
「うん。ちょっと、急いでて、さ」
そこまで言うと、膝に手を着いて一気にはあっと息を吐き出した。それが体育の授業後の男子中学生のようで、ちょっとキュンとしてしまった。
おっと、イカンイカン。
「兄キから。茅野ちゃんにってさ」
渡された紙袋から、ふわりと甘い香りがした。はやる気持ちを抑えて、そっと中を覗く。
「マフィンじゃー!」
「新作。ぜひどーぞ」
「ありがたくいただきますっ」
うきうきするあたしを見て、藤川さんが目を細める。大きな手が伸びてきて、頭をぽんぽんと撫でられた。
「あったかい内にと思って。全速力」
そう言って、「年だなぁ」と頭をぽりぽりかきながら苦笑する。
はうう。こんな時、幸せを感じちゃうんはあたしだけじゃないはず。
「それじゃ」
「あっ」
帰ろうとした藤川さんの袖をつい掴んでしまった。
だって、だって、もっと一緒にいたいんじゃもん!
「よかったら、ウチ……でご飯でも食べてってく、ださい」
なんだか恥ずかしくて顔が見れない。あたしはうつむいたまま、全部喋りきった。
ふうっと小さく溜め息をつく音がした。
「じゃあ、おじゃまします」
あたしはこわれた人形みたいに何度も首を縦に振った。



昨日から煮込んでいたホワイトカレー、ばあちゃんが漬けてくれたらっきょう。それに合わせて、藤川さんが大根サラダを作ってくれた。彼の包丁さばきにあたしは目を見張るばかりだったけれど。
「ああ、おいしかった。ごちそうさま」
「お、おおお粗末様でしたっ」
ああ、不自然!不自然よ、久美子っ。
藤川さんはあたしの応対なんか気にもとめずに、ポリポリとらっきょうに舌鼓中だ。
「ほんっと、おばーちゃんのらっきょうも最高」
「お、おおお恐れ入りますっ」
別に、藤川さんをウチにあげるのが初めてってわけじゃない。かまととぶる気も全くない。
でも、なんでこんなにどきどきするんよ?!!!
「なんか、ほっとした」
藤川さんは右手で首元を緩めた。オトナっぽい仕草に、つい目がいってしまう。それに気づいた彼が頭をかいた。
「いや。ごめん、こんな恰好で」
「あ、そゆ意味じゃ……。なんかオトナっぽくてええなぁと思って」
最後の方は小さな声になってしまった。二人きりだとうまく喋れない。
ああ、もう。中学生か!あたしは。
「お茶いれますね」
逃げるように台所に行き、ほうっと息を吐いた。
それにしても、専門家に出すお茶だって……。何にしようかのぅ。ウチには、実家から持ってきた正体不明なお茶っ葉しかないしなあ。母ちゃんブレンドのどす黒いヤツ。
しばらく悩んでいると、後ろから声をかけられた。


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