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『六月の或る日に。』
【悲恋 恋愛小説】

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『六月の或る日に。2』-8

「俺、その人に先越されたら、絶対勝てねえなって思ったんだ。」

「…その人、って…あたしを、好きだって言ってくれてたひと……?」

恐る恐る聞いてみると、夏樹はすぐに頷いた。

「どうしても、嫌だったんだ。春美が、誰かのもんになるの。だけど、正々堂々その人と戦ったら、俺が負けるのは目に見えてた。だから、春美が逃げられないような状況で告白したんだ。」

なるほどね…。

妙に納得した。と同時に、もう昔のことなのに、ドキドキしてる自分がいた。

「……でも、ずるいよな、俺。」

「え?」

「俺は、その人からチャンス奪ったんだ。春美を想う気持ちは同じだったのにさ。…今でも、申し訳なく思うんだよ。」


夏樹は、どこか遠くを見つめるような目でそう言った。

あたしは、夏樹の言う『その人』を知らない。でもきっと、どんな状況であっても、夏樹を選んだと思う。

けれど、そんなことを言ってみた所で夏樹にとっては慰めにもならないだろう。


何故だろう。

夏樹の今の言葉が、酷く切なく、そして悲しく感じられた。

石でも落とされたように、心が重苦しかった。


*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*

『なぁ…春美さ、仕事しすぎなんじゃねえの?………俺との時間、大事じゃねえの?』

夏樹が沈んだ声でそう言った。どこかあたしを責めているような口振りだった。でも妙に冷静な目であたしを見るから、なんだか少し怖かった。

その頃あたしたちは社会人2年目で、24歳。夏樹は中小企業の営業部署にいて、でも仕事はそんなにハードじゃなかった。
あたしは比較的大きな会社に就職して、やっと仕事に慣れ始めた頃だった。上司に期待されてる事が嬉しくて、もっと早く仕事を身につけたくて、ハッキリ言えばその頃は、夏樹の存在が少し疎ましくもあった。


『……なんで、そんなこと聞くの?』

いつもより投げやりな夏樹の口調に苛立った。

そんなこと聞かなくてもわかるでしょ。

そう思った。



その頃からだ。

あたしと夏樹の中で、何かが変わり始めたのは。


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