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はるか、風、遠く
【青春 恋愛小説】

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はるか、風、遠く-6

ダンッ!

的を外す。何度目だ?唇を噛み、もう一度弓を絞る。
「榊、もういい」
矢を放つ前に後方から声がかかった。燐とした声は感情が読み取りにくい。
怒っているのか、はたまた呆れているのかさえ分からない。
「はい…」
肩を落として構えを止めた。
「矢には嘘はつけん。全て結果となって顕れる。今のお前が放つ矢は迷いしかない」
声は続けた。
「何があったか知らんが、そんな気持ちで練習に来るな」
「はい…すいません……」
あたしは声の主、コーチに頭を下げた。こんなの踏んだり蹴ったりだとか思いながら。
「走ってこい」
「え…」
「頭醒ますいい刺激になるだろう、体操服に着替えて外走ってこい」
しゅんとしてあたしは了承する。体操服に着替えて、というところはせめてものコーチの優しさだろう。袴で走るとかなり重さが負担になるから。

それにしたって。

あたしは部室へ向かいながら空を見上げた。くすんだ色。空いっぱいを覆う。
「雨の中走れって言うことないじゃん…」
呟き、口を尖らせる。
ああ、折角遙の言った通り走らないで済んだと思ったのに。
「神様の意地悪…」
ため息をついて視線を落とした。雨はそんなあたしを嘲笑うように、なお一層激しく地面を叩き始めた。


濡れた髪をタオルでぐしゃぐしゃに拭きながら教室へ向かう。時刻は六時半。もう部活も終わった。
秋の日はつるべ落とし。周囲は殆ど暗闇に支配されてしまっている。
あたしは自分には随分大きいブレザーを手にその中を歩いて行く。今にも闇に呑まれてしまいそう。
二年の教室へ続く廊下を曲がった。明々と、教室から廊下に蛍光灯の光が漏れている。そこだけは闇が居なかった。
あたしにくっついていた闇も、明かりの点いている教室へ近づくたびに浄化される如く消えていく。

「遙」

ひょいと教室を覗き込むあたし。窓際の一番後ろで本を読んでいた青年が振り返った。
「お疲れさま」
ぱたん、と本を閉じて遙は微笑む。
「うん。あ、これ…ありがとう」
あたしは思い出したように、自分の手にあるブレザーを彼に手渡すべく走り寄った。
ああ、と立ち上がる遙。受け取ろうとしてフと手を止める。
「辿、髪濡れてる」
「ああ、うん。コーチに走らされちゃって」
苦笑するあたしの手からするりとブレザーが抜き取られた。そして…


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