青かった日々-4
「急な転勤が決まってな」
悟史は顔を上げた。太一の顔は暫く見たことがない程に真剣であり、真実だということを告げていた。
「そ」
一言だけ短く返すと、悟史は食事を再開した。スプーンでシチューを掬い、それを口元まで運んだところで。
「はぁ、転勤?」
ようやく理解した。
その晩の話をまとめると、太一は急病で倒れた同僚の変わりに異動し、京子も付いていくという内容になる。
家はニ年前に嫁いだ姉夫婦に貸すことになっているらしい。
悟史としては、もうちょい早く言えよと言いたい気持ちがあったが、太一に出された提案によって口を封じられた。
「だから、一人暮らししてみないか?」
その提案をした太一の顔には、ごねてくれるなという感情が多分に含まれていた。
悟史としては、姉夫婦に気を使いたくもなく、一人暮らしも確かにしてみたいという好奇心から、不満の感情はさながら特殊部隊に鎮圧されるテロリストのごとくなりを潜め、二つ返事で了承した。してしまった。
だが、
「不安だなぁ」
いきなりの急な環境の変化に、二日ほど前にようやく追いついた彼の精神は、当初の好奇心はどこへやら。「不安」という二文字に支配されていた。
そして、今日が引越しの当日でもある。
いくら悟史自身が町から離れる訳ではないと言っても、住む場所も環境も変わるのだ。
今日の昼に引越し先の大家が迎えに来るらしいことを、今朝家へとやってきた姉から聞いている。
少年は憂鬱な気分になりながら教室の扉を潜り、クラスメイト達の挨拶もそこそこに、窓際の列、後ろから二番目にある自分の席へと腰を落ち着けると、顔面を机に突っ伏した。