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青かった日々
【青春 恋愛小説】

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青かった日々-3

「ん?」


昇降口に入った瞬間にその考えに微妙にノイズが走る。理由は簡単だ。後ろから不可解な音が聞こえているから。

悟史も気になったのか、履き替えた靴を下駄箱に入れるところで校門を向いた。

音の原因はすぐに分かった。錆びた自転車を漕いでいる音だ。しかし余程シャカリキに漕いでいるのか、その音は最早軋みというよりかは、叫び声とも取ることが出来るかもしれない。


「うおおおっ!」


雄叫びと自転車を漕いでいる阿呆なクラスメイトを見た瞬間、二人は、中断していた作業を再開し、上履きに履き替えると教室へと歩を進めた。

後ろから生徒指導であろう教師の怒号と、自転車のブレーキ音が聞こえてきたが、二人には関係が無かった。

どうせ教室に行けば嫌でも顔を合わせるのだし、せっかく間に合ったのだからHRにもちゃんと出た方がいい。

教室までの短い距離、悟史は今時分抱えている問題を思い返していた。




一週間程前の夜。

悟史は夕飯を食べている間、なんとも形容しがたい感覚を、父である太一(たいち)から受けていた。

普段ならば多弁であるはずの太一の口数が異様に少なく、負けず劣らずに口が達者な母の京子(きょうこ)ですら、この日に限っては、ただ咀嚼のために口を動かすだけ。

なんだか落ち着かない食卓だったが、久しぶりに出た好物であるシチューの味に、質問する意欲を削がれていたのも事実ではあった。


「なぁ、悟史」


不意に呼びかけられた声に顔を上げる。なにかしら話があるのだろうと思っていた悟史はさして驚きはしなかった。


「ん?」


むしろシチューが冷めない内に済むように、極力完結な返事を返す。

太一は何度か口を開けたり閉じたりと、大分迷っていたが、シチューを再び食べていた悟史には見えてはいない。


「父さんな」


早く言え。シチューが冷めるだろう。

十代の男子の中にある食欲は、父親が普段見せないような真剣な態度で話そうとしている話題よりも上だった。

右から左へと話を聞き流す準備は万端であり、悟史はもういっそ食事を済ませてから聞いた方がいいだろうと脳内で決めつけていた。


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