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『It's A Wonderful World』
【コメディ 恋愛小説】

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『It's A Wonderful World 3 』-3

 「俺のせいで、お前が仁美さんに振られてしまうかもしれない、そう思うだけで胸が張り裂けそうになるんだ」
 「いっそ張り裂けて死ねばいい」
 「ふっ、わかってるよ。お前が怒ってるってことは。仕方ないさ。ホントは今頃、お前の隣には仁美さんがいたのにな…」
 それはコンマ1パーセント以下の確率だ。
 あのアホ臭い作戦が成功するワケないし。
 「そのお詫びっていうか、仁美さんの替わりだと思ってよ」
 そう言いながら、アキヒロは懐から長方形のケースを取り出した。
 手渡される。
 プラスチック製の黒いケース。
 表面に派手な写真が貼り付けてある。
 「……」
 ―『女子高生、放課後大奮闘!』
 「…これを仁美さんの替わり、にしろと?」
 「俺のトッテオキさ!」
 誇らしげに親指を立てるアキヒロ。
 「この超絶バカがあああああああ!!」
 本日二度目となる魂の一撃。
 アキヒロが物理法則を無視して部屋の外に飛んでいく。
 そのまま、派手な音を立てて階段から転げ落ちていくバカに、エロDVDのケースを投げつけた。
 なんということだ…。
 バカだ、バカだとは思っていたが、まさかここまでとは…。
 まさかの下ネタオチ?
 あのバカ!!!
 「……」
 マサキは青ざめていた。
 頭の尖がりも心なしか鋭さを失っている。
 マサキは見誤っていたのだ。
 バカの破壊力を。
 「…冗談はさておき」
 「アレを冗談で済ますのかお前は!? お前の心は太平洋か!? デカすぎるだろ!!!」
 「いや、俺の心の広さが太平洋だなんて、言いすぎだ。俺の心は十和田湖だ」
 「せまっ!くもないような…、ああ、もう微妙なメタファーを!!!」
 ごめん、メタファーって1回使ってみたかったんだ。
 なんにせよ、マサキは話の流れを強引に変えようとしていた。
 下では、母の怒鳴り声が聞こえた。
 ―ちょっと、アキヒロ君! 頭から血なんか流して何やってんの!? 冗談は顔だけにしな!!!
 うちは理不尽な家庭だった。
 「とにかく、シュンよ」
 マサキの眼光が鋭くなる。
 「このままでいいのか?」
 「このまま?」
 「お前、仁美さんに…」
 マサキは言葉を溜める。
 「アキヒロのトモダチだと思われたんだぞ!!!」
 「そこかよ!」
 確かにちょっとヤだけど。
 「そもそも、仁美さん狙ってる奴らなんか腐るほどいるしな」
 ちょっとした補足事項のように、マサキは言う。
 だが、しかしですよ。
 「マジか!!!」
 「マジだ」
 そんなバカな。
 ていうか、もっと早く言って欲しかった。
 「当たり前だろー。去年のミス1年生だぞ」
 「どこのどいつだ!?」
 「…シュン?」
 僕はキレていた。
 今なら視線だけで辺り一帯を火の海にできるかもしれない。
 「どこのどいつだって聞いてんだよ! 誰だ、その身のほど知らずは!?」
 アレか。
 こないだ通学路の途中のコンビニでエロ本を立ち読みしてた田辺くんか!?
 それとも、女の子のリコーダーの先っちょを盗むのが得意な藤山くんか!?
 いやいや、モテなすぎて切羽詰まった挙句に食堂のおばちゃんに手を出した葛西くんってこともありうる…。
 まあ、なんにせよ、僕の敵ではないが。


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