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『スイッチ』
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黄昏の約束-2

外はまだ薄暗いけれど、ちゃんと朝が近づいてきている。
さっきまでの夢は妙にリアリティがあって、懐かしいのに物悲しくて。
どくんどくん、心臓が全力疾走した後のように騒いでいる。
夢の感触を手繰ると苦しくなって、生温い布団を抱え込んだ。

あたしの心はいつからこんなに脆くなったんだろう。
ぐらいついて、すぐにひび割れて、あっという間に凍えていく。
身体が悲鳴をあげるまで泣くなんて、今まで一度もなかったのに。
気づいたら忘れてしまうような、不安や痛みだけしか感じなかった。
そういう鎧を、あたしはちゃんと着ていたはずなのに。



ひとしきり泣いて、カーテンを開けたらすっかり頭上に昇った太陽。
休日が恨めしい。
どんなに晴れていたって、どんなに早く起きたって、何の予定もないんだから。
「ひっどい顔」
顔を洗って鏡を見ると、別人みたいなあたしがいる。
泣きすぎてはれぼったい両目、かさかさになった唇。


携帯電話の点滅したランプは、とっくに過ぎたアラームだけだった。





ぐったりした気分を変えようと、思い切って平日の街中に逃げるように出かけてきた。
ここ最近を振り返ると自分を誉めてあげたい行動力。
必要以上にメイクに気合もいれたし、お洒落もしてきた。
欲しくもない洋服を試着したり、使わないアロマオイルの香りを比べてみたり。

(しんちゃんと付き合う前なら、買い物で寄り道なんてしなかったのになぁ)

外出嫌いのあたしを、いつも理由をつけては連れ出してくれたから。
こういうの似合うと思うって、普段は見向きもしないミニスカートを買ったお店。
広い部屋ならこんなソファを置きたいねって、足休めついでに寄った少しレトロな家具屋。
どこに行っても、どこまで行っても…。
「…信之介ばーっかり」
手に取った男物のリングだって、しんちゃん好みのデザインだからつい手が伸びてしまっただけのこと。

会いたい。
ぎゅっと抱きしめてほしい。抱きつきたい。
それだけでこの寂しさは、簡単に消えてしまうのに。

♪?♪♪?

マナーモードの設定もしないまま持ち歩いていた携帯電話が、鞄の中で歌う。
画面には『柳木 信之介』の表示。

驚きすぎて、取り落としそうになりながら通話ボタンを押す。


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