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熊野の熱い夏
【フェチ/マニア 官能小説】

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熊野の熱い夏-4

 だがこのカオリの捨て身の直訴作戦は大きな効果をあげた。毎日止まらなかった脱落者がピタリと止まったのだ。この12人ならきっといける、そんな希望の火が見えてきた。
 その一方で、塾長や私たちのスタンスの変化に戸惑う者もいた。ミキだった。合宿前半も最終日、ミキは私の元を訪れた。「どうしたの? 暗いぞ」「ジュンコ先輩、ジュンコ先輩とカオリ先輩は責任感が強すぎます。先輩達のコテージだけ、夜遅くまで明かりがついてますよね」「ミキ、ミキにはこれから働いてもらわないといけないことがいっぱいあるわ。先はまだ長いのよ。いまは自分のパフォーマンスと体調管理をしっかり考えなさい。あなたはメンバーの中の唯一舞踊経験者、私もカオリも、ミキをいちばん頼りにしてるのよ」。私はミキの両肩にそっと手をかけてそう言った。

 合宿の前半が終わった。今日はこの合宿中で唯一の休日だ。私は前から話してみたかったサナエ先生とじっくり話す機会を持てた。「この合宿、女の子ばかりになっちゃいましたね」「いつもそうなのよ。男の子はなかなか日常を捨てられない。こういう異次元のような空間で些細なことで殴られたり、モヒカンを強制されたりすると、現実に揺り戻されてしまう。その点女の子は、こうと思い詰めたらその壁を案外スッと越えてしまう」「あ、なんかわかる気する」。それからしばらくレイコ先生やユキ先生の思い出話や近況報告が続いた。そして話題は変わった。「あなたたち、塾長のとこに直訴に行ったんだって?」。サナエ先生は急に親しげに笑いながら身を乗り出してきた。「あ、あれ。カオリです。啖呵切ったりするの、カオリの得意技ですから」「塾長はねえ、あなた達の話になると途端に表情が変わって、ほんとに嬉しそうになるのよ。久しぶりに鍛え甲斐のある骨のある奴らが来てくれたって」「はあ、あたし達の前では全然嬉しそうじゃないですけど」。
「ジュンコちゃん、あなたのご両親はあなたが舞踊の道に進むことをどうおっしゃってるの?」「好きで始めた道ならとことんやれって、応援するとは言ってくれてます」「素晴らしいわね」「でも私、どうなんだろ、ただでさえ厳しい道だし」。それから少しサナエ先生は黙っていた。「惜しいわね」「え、何がですか?」「あなたは自分の価値に気づいていないだけなのよ。あなたはご両親やお兄さん、指導された先生方や先輩、お友達、周りの人たちから愛情をたっぷり注いでもらって育った子、そうでしょ?」「そう言われるとそうかもしれませんけど、それが価値なんですか?」「じゃあ、こんなふうに言えばいいかな。甘いミカンは陽当たりのいい場所にしか育たないものなのよ。あなたの映える場所は舞台のように私には思えるわ。カオリちゃんはああいう子だから遠からずレイコ先生の元を離れて自分のカンパニーを立ち上げるでしょうね。それがわかってるから、レイコ先生はあなたを手元に置いて育てたいのよ」「……サナエ先生、私、この合宿で自分が何か変われそうな気がするんです。いままでは、いつもナンバーツーで、頭でも運動神経でもカオリにはかなわないなあとか。いまいい経験をさせてもらってる真っ最中です」「そう思えるところが、あなたやカオリちゃんの素晴らしいところだわ」。

 合宿も後半に突入した。その夜、集会の場で塾長が言った。「明日はこの先の滝のところで実践パフォーマンスをやる。みんな白のパンティーをはいてきなさい」。場内がどよめいた。いよいよ白塗りをやるのだ。その時、トモコが手を挙げて発言した。「塾長、ワンポイントものはダメですか」。「よー、文科系!」カオリがすかさず茶々を入れた。「そのくらいなら、まあいいだろう」。塾長は笑いながら言った。が、和やかなのはここまでだった。さらなる試練が私たちを待ち受けていた。
 翌朝早く、私たちは滝の前に着いた。ここからの手順はこうだ。私たちはまずここで服を脱ぎ、パンティー一枚になる。そのパンティーをTバックのように絞り、練白粉を水で溶いて2人1組になってお互いの体に刷毛で塗り合う。最後はスポンジで調整する。私とカオリには経験がある。これは体験した者にしかわからない恐怖を伴う。舞踏における白塗りを一種の洗礼だと表現した人がいた。戻れない異次元の世界に無理やり投げ込まれるようなそんな感覚と言ったらいいだろうか。みんな、すんなり動いてくれるだろうか。
 私とカオリの不安は的中してしまった。服を脱ぐまではよかった。ところが、そこから先の一歩を誰も踏みだそうとしない。極度に緊張した場面ではこういう負の連鎖反応が起こることがある。誰かがフリーズしてしまうと全体が固まってしまうのだ。胸をさらけ出すことを拒否するように両手で隠す子、パンティーを絞りたがらない子もいる。あのミキまでが金縛りに遭ってしまったかのようだ。まずい。とうとう塾長が痺れをきらした。


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