投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

無味乾燥
【ショートショート その他小説】

無味乾燥の最初へ 無味乾燥 11 無味乾燥 13 無味乾燥の最後へ

ノスタルジー・アンゴワス-5

「もう籠城戦に切り替えるしかない……」

そう言った。誰が口火を切ったのかわからないが、その意見は一斉に広まり、籠城戦しかないような雰囲気になっていた。だが、一人だけ反抗するものが居た。

「籠城戦は本来援軍をアテにして戦うことです! 援軍なんて期待できないでしょう!?」

「しかしだね……」

「私は反対です!」

「もうどうしようもないだろう……」

もう勝ち目はない。それが皆の共通な意見に違いないが、反対した男だけは諦めていなかった。一時は諦めたときもあった。だが、様々なことを通して学んだ。諦めてはいないことを。

「失礼します!」

これ以上言っても無駄と知った男は一礼して、部屋を出た。ふと空を見上げると、晴れ渡っていた。どこぞの男たちの気持ちなどに影響されないように。

こんなところまで生き延びちまったよ。

後悔はあった。苦楽を共にした仲間たちはもう少ししか残っていないのだから。だが、みんな戦いの中で死んでいった。武士としては本望だったに違いない。

『死に場所』

自分の部屋に戻ると、今まで着た服を脱いで、昔の服を着直した。この想い出のこもった服を死に装束と決めていた。しかし、死ぬとは思っていない。勝つ。勝ち続ける。そんな思いを抱いていた。

馬小屋まで行くと、彼は叫んだ。

「馬を出せ!」

「し、しかし……。それにその格好は……?」

「いいから出せッ!」

その威圧感は健在だった。馬を世話していた人物はその威圧感に圧倒され、馬を出した。

彼は馬にまたがると、すぐに馬は走りだした。敵本陣に着くまで、物思いに耽っていた。それは走馬灯に似ていたのかもしれない。だが、死ぬ気はない。それだけは確かだった。

ものの数分で本陣に着いた。やはり最新の鉄砲の数々。しかし、怯むわけにはいかなかった。怯えるわけにはいかなかった。あいつらをぶっつぶす。それは今の今まで、そして、これからも変わらない。

 彼は敵に聞こえるように、天に届くように、死んでいった仲間たちに届くように、叫び、そして、駆けた。

「新撰組副長、土方歳三! いざ、参る!」

End


無味乾燥の最初へ 無味乾燥 11 無味乾燥 13 無味乾燥の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前