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『スイッチ』
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『スイッチ』-3

「おー、スッピンだ」
「だめですか」
寝化粧なんてめんどうくさいのです。多少の目力ダウンとクマが目立つだけだし。
それにしんちゃんだって、メガネでしょ?
「や、かわいいかわいい」
「嘘くさーい」
冷蔵庫から新しいチューハイを取り出してぷしゅっと…
「くそぅ」
空かない。
爪きちゃったせいなのか、こいつが開けられたくないのか、とっても頑固なプルタグちゃん。
「どれ、僕に任せなさい!」
ほろ酔いで少し気分がいいのか、座ったままで手だけひらひらさせてるしんちゃん。
「だいじょーぶだって」
定位置に座りなおして再チャレンジ。かりかりとすべるあたしの指。
か弱い女子じゃないんだけどなぁ、ほんとに頑固。
「意地っ張りめ」
すっと伸びてきた手に缶を奪われ、あっという間にぷしゅっといい音。
「…ありがと」
悔しいのと、照れるのと。
どういたしましてと上機嫌に、しんちゃんは冷蔵庫から新しいチューハイを補充して元の場所に座りなおす。
あたしも開けて貰ったチューハイ片手に、リモコンを操作して大好きなロックを流す。
あたしもしんちゃんも、喫煙者で酒飲みで、音楽好き。安いスピーカーから流れるリズムに合わせて、しんちゃんが丸テーブルに指を置いてリズムを刻む。
「ゆきちー」
「なーに?」
タバコに火をつけながらライム味を一口。んーうまい。
「何でそっち座るの?」
「何で、って…」
「こっちおいで?」
甘ったるい声で、ぽんぽんと床においたクッションをたたく。
「や、動くのめんどい」
「…かわいくない」
「うっさい」
照れてるのよ、これでも。顔にださないのだけは上手なの。
「かーわいい」
完全に酔っ払いのテンション。
すねたり、笑ったり、鼻歌歌ったり。
さっきからテーブルをたたく指も絶好調だ。
「あー!ライブしたい!」
「いつやるの?」
「次はー…14日?」
残念、その日仕事だ。また行けない。
「ゆきち見にきてよ」
「無理ー」
「仕事?」
「そうよー」
「夜からだし、残業断ってきちゃいなよ」
「そうもいかないんだって…」
なんか、男女逆転な会話。
あたしだって行けるなら行きたい。でも、仕事は仕事で大事なの。変なところでまじめな性格。かわいく…ないなぁ。
残念だなーなんてしゅんとしてくれるのが、ちょっと嬉しい。
空っぽになった缶をもって、おかわり。
「柳木さんにももう一杯」
はいよーって、返事をしようとしたのに。
ふわっと、メンソールの香り。
「しん、ちゃん?」
「ゆきち、甘いにおいがする」
濡れた髪がちょっと冷たくて、耳元で囁く声が思いのほか低くて、寄りかかるように抱きしめてくる腕が、熱い。
心臓がどくんどくん、うるさいくらいに自己主張してる。
「はい、おかわり」
平然を装って、取り出したチューハイの缶を差し出してみる。
声が、震えてしまいそうだ。
「いーにおい。髪の毛ふあふあだし」
はいどーぞって押し付けるように差し出したあたしの手ごとつかまれて、離れようとするとぎゅっと強く抱きなおされる。乾きかけのあたしの髪に、ほお擦りのオマケつき。


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