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春に生まれた彼女へ
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今夜は、手を繋いで、眠ろう-3

「あ、今日はおしるこじゃないんですね」


何故か少し夕は、残念そうだ。
しょんぼり、という言葉がぴったりだ。


「んー、ここにはなかったしね。飲みたかったの?」

「いえ!だってですね、おしるこ飲んでる朔さんって、とってもかわいいんです」

「…なにそれ?」

「とっても幸せそうだし、いつもは大人な朔さんが、甘い物を飲んで、ニコニコしてて」

「そんな顔してたんだ、僕」


元々、甘い物が嫌いなわけではない。
やっぱり、甘い物を口すると、どこかほっとして、頬が緩んでしまうようだ。




「あ、そろそろ、帰ろうか」

「そうですね…あ、少し待ってください!」


そう言うと、夕は、携帯を持って走っていった。

何しに行ったんだろう?
まぁ、すぐ帰ってくるだろう、僕はそんな風に思っていたのだけれど、帰ってこない。

おかしく思った僕は、館内を捜していると。

小さい魚の、水槽コーナーで、夕の姿は見つかった。
―夕以外の、男も、おまけ付きで。

ふーっと、一息ついて、夕と、男の間に、割って入った。


「すいません、俺の連れに何か用ですか?」

『あっ、いや、えっと』

「用がないなら、さようなら」

『…さようなら』




ぐっと、夕の手を握って、ずんずんと、歩き出す。





「あ、あの、朔さん…」

「なに?」

「す、少しだけ、ゆっくり歩いてくだ、…わっ」

「…あ、ごめん」


無意識に、歩く速度が、速くなってしまっていたようだ。
転けそうになっている夕を、支えながら、今度はゆっくりと歩き出す。

夕は、ちらっとこちらの様子を窺っているようだ。


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