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DEAR PYCHOPATH
【サイコ その他小説】

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DEAR PSYCHOPATH−9−-3

 「何言ってるんだよ。早く病院に行かなきゃ」
 かぶりを振って、彼は言った。
 「彼が行かせてはくれなさそうですよ」
 「え?」
 脳からの伝達を邪魔するような激痛に耐えながら、どうにか立ちあがり、流の横に立つと、僕の呼吸は息を吸い込んだところで止まった。僕の瞳に映る光景は、燃えているとか、火事だとか、それは随分と控えめな言い方だった。少なくても僕らの目の前に広がるそれは、まるでどこかの活火山の噴火を、ここで再現しているかのようだった。けれど、僕が息をするのも忘れてしまう程驚愕したのは、そんなことが理由ではなかった。どこが発火点かもわからない程吹き出す炎。そこに揺らめいて立つ、きゃしゃな人影を見たからだった。
 「チャールズ?いや、違う!」
 人影はゆっくりと僕らの方へ近づいてくる。
 「まさか・・・」
 火の粉が、まるで胞子のように所かまわず飛び回り、辺りを明るくしてはまた闇を生む。速くなる鼓動とは裏腹に、僕の思考回路は嘘のように回転を止めた。
一つの答えだけを目の前に表示したまま、他の可能性なんて考えられなくなっていた。この状況は、足し算や、かけ算のように答えの一つしかないものではなく、あらゆる可能性の転がる現実だというのに・・・何ということだ。こともあろうに僕は、一つの答えに絶対的な確信を持っていた。しかも最悪な答えに。人影は既に、表情が分かる程僕らの近くに立っていた。高校生くらいであろうか。眉目秀麗とはよく言ったものだ、と思う。少年のその真っ白な肌と、長いまつげ、すっと通った鼻梁と濡れて光る唇はまるで虫の一匹も殺せないような無垢な美しさを、そのまま象徴しているかのようだ。だけどこいつは、
 「エド・ゲイン」
 そう、流の言うとおりだった。
 僕らの目の前にいるこいつこそが、サイコパス、エド・ゲインであり、僕ら全員の宿敵なのだ。とはいっても、チャールズまでもいない今、二人だけの敵になってしまったが。
 「カムヤに刺さっていたあのナイフ、リモコン式の爆弾ですね」
 かすれ声で流が言った。
 「そうだ」
 まるで人形のように、表情を崩さずエド・ゲインがそれに答える。
 それを見た瞬間、僕は首筋が凍る思いだった。無垢な少年だなんて笑わせる。
顔の印象が持つ意味なんて、何もないということが今ここではっきりと分かった。
 「始めは・・・」
 長いまつげを伏せて、まるで無表情に彼は言った。
 「小学生だった。仲間だろ?お前らの。泣きわめいていたよ、手足をばたつかせてね。それを見ながら、体中にナイフを突き刺す快感っていったらなかったね。
昔、あったよな。黒髭ナントカ・・・そうそう、危機一髪だ。あれのおもちゃ、好きだったんだ。一番楽しかったのは外れの場所だった。首が飛ぶだろ?それを見ていると、心が騒ぎ出すんだ。けど、不思議なことにあの小学生はどこを刺し
ても、首が飛ばないんだ」
 「なんて奴だ・・・」
 沸いてくる怒りを押し止めながら、僕は呟いた。
 「でも大丈夫。僕が、彼の首を切断してあげたから」
 切れた。堪忍袋の緒が本当にあるのなら、切れるのは今しかないと思った。僕は拳を握り、踏み出した。が、遮断機がすぐに降りてきて僕は重い足を止めた。
流の腕だ。
 「どけよ」
 彼を睨みつけながら、僕は言った。例え誰に止められようとも、この煮えたぎる怒りをエド・ゲインにぶつけるまでは気がすまなかった。
 「逃げてください」
 「何言ってるんだよ。エド・ゲインが目の前にいるんだぜ」
 彼の意外な一言に驚き、かぶりを振る。冗談じゃない。ここまできて逃げろだなんて、パチンコで7が三つそろっているのに無視して帰るようなものだ。しかし彼は断固として譲らないという表情だ。
 「どけよ!こいつをぶっ飛ばしてやる!」
 と僕が彼の腕を振り払って、強引に前へ出ようとした時だった。
 左数十メートル先から、けたたましいエンジン音と共に、真っ赤な何かが炎の中からとび出して来るのが見えた。始めは燃えているのかと思ったが、違った。
僕らから少し離れた所で、軽くスピンターンをして止まったそれは、流の愛車、フィアット・バルケッタだった。
 しかも運転席には、僕らより多少軽く怪我を負ったチャールズが座っている。


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