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ラプンツェルブルー
【少年/少女 恋愛小説】

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ラプンツェルブルー 第5話-3

互いに黙ったまま、駅までの道を辿る。
いつもより長いそれに、いたたまれなくて駆け出しそうな衝動と戦っていた時だった。
「……とう」
「……?」

微かなアルトに立ち止まると彼女と並ぶ形になっていた。
「助けてもらったの、これで二度目」
そう言いながら僕の脇を追い越していく。
どうやら、不器用者なりの礼だったらしい。
夢から醒めたばかりのような覚束なさで、今度は僕が彼女の後ろに続く。
二歩の距離をおいて。
「……俺もさっさと抜けたかっただけだから」
「…でしょうね。すごくつまらなさそうな顔してたから。今もそうでしょ?この気まずい駅までの道を長く感じてたりして」
ううむ。鋭い。
姿形は同じでも、夢の中のあの人とはどうやら一線を画するらしい。
「それってお互い様じゃないか?」
「そうね。わたしも同じ」
ふわり。とほんのわずか振り返って見せた微笑み。
初めて見た彼女のそれに、僕の心のどこかがざわめく。
「あの時はゴメン」
今度は彼女が立ち止まる番だった。
僕の謝罪の意味を図りかねて、次の言葉を待つ彼女。
突拍子なさすぎだよな。
僕自身、思わぬ『ゴメンナサイ』発言に、慌てて言葉の継穂を手繰り寄せているのだから。

「お節介無用とか……。あんな目に遭ったのに、ひどい事言ったりして」

往来で突っ立ったままの僕らを、迷惑と好奇が半分ずつの視線をよこしながら通り過ぎる人たちに、どちらが促すともなく僕らは再び歩き始めた。
今度は肩を並べて。

「子供の頃、母親に散々読み聞かされた童話なんだけど」
気付けば僕は思いつくまま、話し始めていた。
「塔に閉じ込められた髪の長い女の子。あれにイメージが重なるんだ」
……なんでこんな事話してんだろ?
「大体さ、そんな長い髪を、ワケのわからないオヤジに切られるなんて……勿体なくね?」

うわ。
勢い任せとは言え、これじゃまるで説教オヤジだ。
しかも『お節介』再び。
僕にしては珍しく懲りないヤツになってしまっている。

「そのお話って『ラプンツェル』?」
「そう。知ってるんだ?」
僕の『お節介』を咎める事なく、空を仰ぎ物語のあらすじをそらんじる彼女の横顔を盗み見る。
「二幕に分けるなら、王子様との密会が見つかって森に捨てられるところまでが第一幕。そして森で王子様と再会して城に戻る……で第二幕かしら」

ああ、そうか。演劇部のメンバーと言っても、俳優じゃなくて彼女は脚本係だったっけ。
まさか、僕の夢では主演だなんて思いもしないだろうな。
そう思っていた先から、
「もしわたしがラプンツェルなら」
まるで見透かされたような彼女みずからの配役に、僕の心拍が一瞬停まって、跳ねる。

しかし次の言葉。

彼女はまるで謎掛けのようにこう言ったのだ。
「わたしの役は第一幕目までね」
と。


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