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SFな彼女
【SF 官能小説】

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SFな彼女 -Sullen Face編--2

「あ、お客様ですか? いらっしゃいませぇ」
「………」
ユズリハの笑顔での出迎えに、榊の表情が凍りついたように見えた。
俺を睨みつけ、それからすぐに俺から視線をそらす榊。
忙しない奴。何なんだ、一体。
「私、帰るわ」
「え? おい、ちょっと何言ってんだよ」
せっかくビール缶を片付け、テーブルを拭いていた俺に、榊はそう言った。
踵を返し、すたすたと玄関へ向かう。
「痛いんだろ? 手当てしてやるって」
「彼女を呼んでいるくせに、女を部屋に上げるなんてどういうつもり?」
榊がきっと俺を睨みつけた。
俺はちらりとユズリハを見やる。
「あいつのことか? だったら、俺の彼女じゃなくて――」
「だったら何よ。兄妹には見えないけど?」
「う……その」
彼女は宇宙人で、俺がここに泊めるのを身体で払ってもらってます。
なーんて冗談でも言えねえよなァ。
俺は言葉を詰まらせる。
「ホ、ホームステイ」
そして、咄嗟に出た言葉がそれだった。

「ホームステイしてんだよ、彼女!」
「ホームステイ?」
明らかに疑った目で俺を見上げる榊。
えいままよ、と俺は嘘の説明を続けた。
「本当は俺の弟の友達でさ――えっと、その……東京見物したいって、今俺のとこに来てんだ」
俺に弟がいるってのは本当だ。青春真っ盛りの十七歳は、男子校で球児をやっている。
もっとも、奴は現在実家の長野だ。
「今の時期に?」
「そ、そう」
「弟さんは?」
「あ、あいつは今野球観戦に行ってんだ。それで、手違いで彼女の分のチケットが取れなかったらしくて……えっと、だから俺がその間面倒みてて……」
何て苦しい言い訳だ。
だが、榊は納得したように頷いてくれた。
「……そう」
ほっと胸を撫で下ろす俺。その後ろからユズリハが声をかけた。
「その方は、マサキさまの恋人さんですか?」
俺はぎょっとしながらも、慌てて首を振る。
「ち、違えよ! こいつは俺のゼミの」
「そんなわけないでしょ! それより……マサキ"さま"?」
俺の言葉を遮り、榊が言って胡乱げな眼差しを俺に送った。
「そ、そーなんだよ。彼女、"さま"付けで人を呼ぶのが癖らしくってさァ! な、なあ?」
「はい!」
にっこりと、ユズリハは笑みを浮かべる。
そして榊の手を取って言った。
「ユズリハと申します。あなたのお名前は?」
「榊楓よ。……日本語上手ね」
ありがとうございます、とユズリハ。
俺は榊の発言のひとつひとつにびくびくしながら、二人の会話を見守っていた。
「カエデさまですね!」
屈託のない笑顔でそんなことを言われたら、誰だって自分の方が照れてしまう。
それはこの榊も例外ではないらしく、微かに赤らめた顔をそむけながら言った。
「さま付けで呼ばれるのは、何だか気恥ずかしいわ。榊か、楓でいいわよ」
「これがわたしの親愛のしるしなんですよぉ。それより、マサキさま」
「はいッ?」
思わずぼーっとしていた俺に、ユズリハが声をかけた。
「カエデさま、頭にお怪我していらっしゃいます。早く手当てなさらないと」
「! そうだった」
俺は慌てて二人を居間に座らせ、自分は救急箱を探した。


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