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ジャム・ジャム・ジャム
【SF その他小説】

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トースト・トースト-6

終章 本当はこれが一番の……

バレンタイン・デイ当日、アジトは何となくそわそわした雰囲気に包まれていた。
微かに香るほろ苦くも甘いチョコレートの香りが漂うのは、先程までダナがチョコレート作りをしていたからだ。
そのダナもお手製チョコレートを配るため、今しがたアジトを出たところだった。
エイジとジャムの二人残されたアジトは、妙に居心地が悪い。
口喧嘩はいつものこととは言え、昨日の今日だから気まずい。
エイジが、流石にその空気に耐えられなくなったのか、やおら立ち上がり、無言でアジトを出て行った。
その背を睨み付けるように見やり、ジャムも立ち上がると、奥の部屋へと駆けて行った。
「……素直じゃないなんて、分かってるけど」
ひとりごち、ジャムは紙袋とエプロン片手にキッチンへと入って行った。


「たっだいまァ」
相好を崩したダナが陽気な声で帰宅を告げた。
上機嫌の理由をジャムが訊ねると、彼は含み笑いを漏らしながら言う。
「ンふふ、アタシのチョコレートをね、バスタ・カフェのマスターが美味しいって言ってくれたのよォ」
バスタ・カフェは、ギャラクティカのイーストサイド入り口にある店だ。
美味いコーヒーと手作りクッキーが売りのカフェには、昼間はイーストサイドの労働者達が多く訪れ、夜には恋人達の姿もちらほらと見える。
ダナはこのバスタ・カフェのマスターであるレッソ・バスタに熱を上げている最中であった。
頬を赤く染め恥らう大男を傍らに、よかったね、とジャムは苦笑を浮かべる。
「でも、よくお店の中で食べてくれたね。他に女の子、たくさんいたんじゃないの?」
まるで映画俳優のような甘いマスクのマスターだ。彼にチョコレートを手渡す女達は多かろう、とジャム。
ダナは不気味に笑いながら言った。
「ンふふふふ。マスターが世間話で笑ってる隙を突いて食べさせてあげたのよォ!」
仕草を交えながら言うダナだが、その仕草を見るとどうしてもマスターに「食べさせて」というよりは「口の中に突っ込んで」いるようだった。
「毎日素振りをした甲斐があったわァ」
「そ、そうなんだ」
ジャムは口元を引き攣らせる。
だが、ダナが作ったチョコレートが美味しいのは本当だろう。
彼女も今朝彼から貰った可愛らしいハート型のチョコレートをおやつに食べてみたが、売っている物よりもずっと美味しかった。
「でも、本当美味しかったよ。小さく作って売り物にしたらいいのに」
「ヤダわァ、ジャムったら! 口が上手いンだからッ」
言ってダナがジャムの背をばん、と叩いた。
ジャムは彼の馬鹿力に口だけではなく顔も引き攣らせ、背を押さえてうずくまる。
そんなジャムに、あらやだ、ごめんなさいねとダナは口元を押さえた。
「そういえば、ジャム」
ダナが思い出したように手のひらをぽんと叩いた。
「?」
未だ涙目で背を押さえているジャムが首を傾げると、ダナはにやにやと笑みを浮かべながら言う。
「エイジに、何作ったのよ!」
「なッ、何で……」
自分では、こっそりと作ったつもりだったのに。
ジャムはぎくりと身体と声を強張らせた。
さあ白状しなさい、とダナに迫られる。
「な、何にも――」
「嘘おっしゃい! 包丁使ったでしょ? その指の絆創膏!」
ダナはそう言って彼女の指を差した。彼女の両指は絆創膏で真っ白だ。
くすりと笑い、彼はジャムの肩に腕を回した。
「それに。何かしら、ジャムからオレンジっぽい匂いがするのよねェ」
こうなってはもう隠していられないだろう。
苦笑し、ジャムは仕方なく冷蔵庫を開く。


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