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人間ダーツ
【サイコ その他小説】

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人間ダーツ-4




ゲーム開始から一時間は経過したことだろう。それでもまだ、愛美は死んでいなかった。しかし、右隣の男が死んだこと、相次ぐ負傷者の続出。もう愛美は生きた心地がしなかった。
残り生存者が何人であろうとこのゲームは終わらない。全員が五投全てを投げ終えるまで。
今、三投目を二人目が投げようとしていた。こいつはさっきからやたらとへたくそだ。一投目は自分の真下に落ち失敗。二投目は投げた瞬間に躓いて自分に刺さりそうになった。このとき、愛美は生まれて初めて心のそこから死ねばいいのにと思った。
第三投目。投げたナイフは垂直に……飛んできて…………。
『きゃああああああ!!!!痛い!!』
二人目の投げたナイフは見事に愛美の右腕に刺さった。右腕に激痛が走る。何か叫ばないと耐えられない、そんな感じだった。
生まれて初めての激痛に耐えられず、ついには泣き出した。それを見た主催者らしき男は笑っていた。自分の痛みでそれどころではなかったが、他の人間はさぞ主催者に怒りが募ったことだろう。
『20点ですね!これでやっと得点が入りました!しかし、依然最下位ですが頑張ってここから追い上げを見せてください!!』
20点。そう言えば自分は20を付けていたな、と思い返す。その直後に自分の名前が呼ばれた気がしたが、気のせいだろう。
段々と意識が遠のいてくる。血が腕からだくだくと流れ、今にも気を失いそうだ。それでも死んでしまうと必死に自分で自分に言い聞かせた。
『愛美!!』
ん?誰かいま私の声を呼んだ?やはりさっきの声は空耳ではなかった。しかし、一体誰が。見ようとしても意識が薄れてゆく愛美には到底無理なことだった。
『愛美!しっかりしろ!!大丈夫か?』
もう一度。今度はいろいろと付け足しながら。今度は何となく分かった気がした。しかし、今は思考回路がいまいち働いてくれない。いつもなら分かるだろうに、全然思い出せなかった。
『愛美!返事をしろ!!貴之だぞ!!!』
その声でハッとした。この声の主は貴之だったとは。それが分かった途端、愛美には底知れぬ力がみなぎってきた。
『愛美!!聞こえているなら返事をしなくて良いから聞いてくれ!!』
分かった、と心の中で呟いた。
『今、何故俺がここにいるのかはさっぱり分からない。会社でトイレに行った最中にいきなり背後をとられた。ただそれだけしか。もちろん、愛美も自分が何故ここにいるのかは分からないはずだ!それで本題に入る。俺は今100点のゼッケンを付けている。ねらわれる可能性の一番高い的だ。だから、死ぬかもしれん。しかし、愛美だけは絶対に生き残るんだ!!何としても!!!』
生き残れ、と言われても自力ではどうにもならない。後は自分の運を信じるだけだ。それを言葉にはできないまま、愛美は再びぐったりとした。
三人目。床にたたきつけてしまい失敗。続く四人目これまた失敗。五人目。これも失敗。
三人が続けて失敗した。ドキドキはしたが、内心失敗続きでこのまま行って欲しいと願っていた。すると、その願いを神様が聞いてくれていた。
四投目も全員が失敗した。今まで失敗は一人を覗いては少なかった。それなのに急に失敗の数が増えた。ここに来て疲れたのだろうか。たしかに、今までよりは元気が無い気もする。失敗した後も大して悔しがらない。
『さあ、五投目です。どうぞ。』
主催者の声も段々とトーンダウンした様子だった。そんなにやる気が無いなら今すぐ止めてしまえと叫びたかったが、このまま何事もなく終わってくれなきゃ困ると、自分の口を閉じた。
一人目は失敗した。
『これで得点が決まりました。一人目の選手は、120点です。』
選手はそのままトボトボと暗やみへ消えていった。
二人目。渾身の力を振り絞り、投げた。しかし、スピードのついたナイフは見事に逆回転し、柄の方が一人の男の腹に直撃した。男は数分苦しそうにしていたが、死ぬよりましだと当然思っていただろう。
やがて二人目の選手も力の抜けたように後ろへ帰っていった。
後三人。つばをごくりと飲み込み、無事を祈った。
三人目。やる気が無いように下投げでそのままスピードのついていないナイフは真っ逆様に落ち、カランと音を立てた。
後二人。
四人目。ここまで来て死にたくはない。絶対に生き延びてやる。どこからでもこい、と言った風にして構えた愛美は今までで一番強かった。
右側に振りかぶり、思い切り投げる。が、勢い余って下に投げつけてしまった。運命は味方するもんだな、と愛美は驚き、もう死ぬことはないだろうと思いこんでいた。
運命の五人目。この五投目が大きく運命を変えた。


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