光の風 〈回想篇〉前編-14
「オレはオフカルスの皇子カルサトルナスだ！」
カルサの声と同時にヴィアルアイの刄が下りてくる。カルサが構えた剣でさえも裂き、カルサの右肩から左脇腹まで刄は捕らえた。
まるで飛ばされるようにカルサの体は左に流れ、叩きつけられるように地面に倒れた。
カルサは俯せになった体をゆっくりと起こし、再びその目にヴィアルアイを映した。金色の瞳はずっと訴えていた。
「何故…分からないっ！？全て邪竜に食い尽くされたのか、貴方程の人が！」
その言葉にヴィアルアイの表情が歪んだ。何かを一瞬思い出したように、少し放心状態になるとまたカルサに視線を戻した。
彼の眼差しは変わる事無くヴィアルアイに向けられたままだ。
ヴィアルアイが手を動かそうとした瞬間、カルサの前には千羅が盾になるように位置していた。
「千羅。」
カルサが千羅の名を呼ぶ。まだ起き上がれないカルサの前、両膝をつき、両手を広げて千羅はいた。肩が上下するくらい彼の息は上がっている。
ヴィアルアイが一歩ずつ近づく、それでも彼は態勢を少しも変える事無く迎えた。千羅の視界にはヴィアルアイしかいない。
「千羅、逃げろ！」
カルサの絞りだした声を千羅は聞こえていないはずがない。ヴィアルアイが二人の目の前で足を止めた。
「千羅！」
カルサの悲痛の叫び。千羅は振り返らずに、答える。
「皇子。」
その表情にヴィアルアイはひるむ。千羅は強がりからか、笑っていた。
「皇子が起き上がるまで、ここにいます。」
カルサの目が大きく開く。千羅の言葉を聞いた瞬間、カルサの脳裏によぎったものがあった。目だけをヴィアルアイに向ける、心なしか彼もカルサと同じ反応をしているように見えた。
カルサの口が何か言おうと開いた瞬間、ヴィアルアイからの炎の刄が千羅を襲う。しかしそれはかすめた程度のもので終わった。
「貴様はすぐには殺さない。」
ヴィアルアイの言葉に二人は反応した。
「せいぜい苦しむがいい。」
苦い表情は思いと言葉の裏腹を表わしているようだった。カルサ達に背をむけ歩き始める。カルサが何か口に出そうとした時には、ヴィアルアイは周りの景色に溶け込むように姿を消してしまっていた。
「亜空間を自由に行き来できるのか。」
千羅が呟いたのが聞こえた。千羅は振り返り、まだ起き上がれないカルサに手を差し伸べる。
「傷の状態を診ます。」
カルサは体を起こし、壁にもたれて座った。生々しい傷跡から血が溢れている。