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「カオル」
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カオル@-3

分娩室の扉が開き、ひとりの若い看護師が晋吾に歩み寄来る。
 晋吾は、座っていたベンチから飛び上がらんばかりの勢いで立ち上がった。

 看護師は、満面の笑みをたたえながら彼に言った。

「おめでとうございます!元気な男の子ですよ」

「エッ…?あ、ありがとうございます!」

「もうしばらくしたらお会いできますから!待ってて下さいね」

 看護師はそう告げると、ナース・ステーションのある奥の方へと廊下を小走りに向かった。

 晋吾は困惑していた。だいぶ前から、定期検診を受けた須美江の口からは、女の子と聞かされていたからだ。
 そこで晋吾は人名漢字辞典で字画の良い名前を探したり、人づてに聞いた有名な易者のところを訪れ、多額の見料を払って名前を書いてもらったりしていたのだ。

 それが産まれてみれば男の子だという。しかし、すぐに嬉しさがそれを上回る。

(母子共に健康ならそれが一番だ。男の子だろうが女の子だろうが関係無い)

「こりゃあ、役所への届け出期限までに考えにゃならんな…」

 喜びの表情で独り言を呟く晋吾。

 それから更に2時間が経過した後、晋吾は須美江と赤ちゃんが待つ個室へと向かった。

「須美江…」

「あなた」

 須美江は、ベッドから半身を起こして肌着を着せられた我が子を優しく抱いていた。
 晋吾はそれを覗き込みながら、柔和な顔で妻を労った。

「よく…頑張ったな…」

「ありがとう…私達の子供よ…」

「目元なんかお前そっくりだな。大きくて…」

「通った鼻筋はアナタね」

「良いトコ取りかな…将来はプレイボーイ間違いなしだ…」

 早くも親バカぶりを発揮する2人。晋吾はベッドの傍らに腰かけ、須美江の肩を抱き寄せる。

「明日にでも真由美を連れて来るよ」

「そうね。あの娘もお姉ちゃんになるんだから…」

 真由美とは養女の名前である。

「すぐに名前を考えないと。まさか男の子とは思わなかったから、女の子の名前しか用意してないんだ…」

「退院するまでにはよろしくね、お父さん」

 須美江は明るい口調で晋吾に言った。

 その後、1時間ほどしてから晋吾は帰って行った。行先は自宅ではなく、自宅近くの彼の実家に。娘の真由美を預かってもらっていたのだ。


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