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「魚と彼と下半身」
【性転換/フタナリ 官能小説】

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「魚と彼と下半身」-1

私は水槽に二匹の魚を飼っている。何ヶ月か前、数年付き合っていた彼とも別れ、独身で、マンションの一室で一人暮らしをしている私にとって、ペットというのは孤独の慰めになる存在。猫も一匹飼っているけど、水槽の魚の、とくに2匹の中の大きい方の魚の方が、猫より気になっている。愛している、可愛がっているのは、どちらかといえば猫の方かもしれない。でも、この魚のほうが、どうしても気になり、家にいて起きている時間の半分くらいは、この魚を眺めている。120センチの水槽で飼っている40センチくらいのこの魚の、尾鰭は、かなり大きくて体長の1/4を占めている。その10センチくらいの尾びれには、古代エジプトか何処かにあったような象形文字がある。この魚を眺めていると不思議なことがよく起こる。正確にいうと起こったことはないのだけど、何かが起こりそうな漠然としたでも強い直感を伴う予感がする。それに、白昼夢を見ているときか今から眠ろうとしているときの夢と覚醒の間にあるような意識によく迷い込み、不思議な印象がまるで外からたぶんこの魚からこちらの脳髄へ侵入してくるような感覚も、よく起こる。
 この魚を眺めていると、何故か一緒に飼っている一回り小さい魚の顔が目の前に見えたりする。他にも、水の中にいるような水流が肌を打つような印象がしたり、エアーポンプの音が耳元すぐ近くで聞こえたり、水草が肌に触れる感覚がしたり。
 今日は、さっきからご飯も食べずに5時間くらい私はこの魚を眺めている。今はたぶん午後の9時くらいだろう。たまに、なにか懐かしいような太古の印象がするような変な感覚が襲ってくる。この感覚は、尾びれの象形文字と関係しているらしい。なんとなくそんな気がする。外は大雨が降り続いている。でもその雨の音が意識されることはないくらい、ずっと、頭の中はこの魚の世界だけが占めていた。
 突然、窓が青白く光ったかと思うと、そんな魚の世界への耽溺さえもかき消してしまうくらいの、大きな雷鳴が轟いた。ほとんど同時だから近くに落ちたらしい。その光と音が激しかったからか、私は気絶した。
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 下半身がぬるぬるする。上半身には冷たい感触。私が私ではなくなったような気がする。呼吸には何故かコツが必要らしく、苦しい。前を見ると、小さい方の魚の顔がある。ヒレを微妙に動かし口をパクパクさせながら、同じ位置を保ちつつ、こちらを縦長い顔の左右についている目で凝視している。またあの不思議な感覚かな、て思ってみたけど、いつもよりリアル。後ろを振り返ると、エアーポンプの気泡が鮮明に見える。呼吸にはやっと慣れた。肺や食道が冷たい。常になにかが流れ込んできている。つまり私は水槽の中でエラ呼吸していた。下半身を見てみると、例の象形文字みたいな模様のある尾びれが見える。私は目の前の小さい魚や水槽の大きさから推測するに、40〜50センチくらいらしい。下半身は、大きいほうの魚のもので、上半身は私のもので、胸が露わになっている。
 水槽の外を見てみると、床には、私の着ていた服や下着が落ちていて、水に濡れて湿っている。水たまりのようになっていて、水の足跡みたいなのが見える。その足跡を辿っていくと、冷蔵庫や食器棚があるほうへ続いている。猫がなにか見てはいけないものをみてしまったように驚いて、詳しく言うと、背中をアーチ状に丸くして垂直に飛び上がり、全身の毛は逆立ち、尻尾は立った毛のせいで2倍くらいの太さになっている、そんな感じで別の生き物になったような格好で驚いて、ちょっと開いていた窓からさっと逃げていった。ほかにもいろいろと水槽の中から自分の部屋を眺めていると、突然、気持ち悪い生き物が、冷蔵庫の方からこちらへやってきた。前がちゃんと見えないらしく、壁にぶつかりながら、よろよろと、でもすごい勢いで、こちらへ向かう。がに股で、細い人間の脚。でもがに股であることを除けば、いつも見ている脚だった。下腹部には恥毛がある。この部分もいつも知っている、色、形。そこを見ていると、見られているような恥ずかしい感じがした。おへそから上は、大きな魚。だから、上を向いていて、なかなか前は見れないらしい。


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