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願い
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願い-2

「あっちのことは気にするな」

 言われなくても気にしていない、とは言わずに私は小さく頷くとそのまま白衣の男に誘導されて施設を出た。寝床も食事も心配しなくても勝手に出てくる暮らしが少しだけ惜しいなと思いながら。

 連れて行かれたのは研究施設のようだった。実験道具と本がいまにも崩れそうな位に積み立てられた大きく、白い建物。頑丈な手錠をされたまま白衣の男の前に立たされる。

「さて、君は凶悪な殺人犯だそうだね」

 白衣の男が気持ち悪い位の笑顔で言った。

「まあね、もう否定する気も起きないわ」

「本来ならば死刑囚、ならば君の肉体には何をしても良いわけだ」

 こいつも変態なのかと怪訝な顔をしていると、白衣の男は慌てて手を大きく左右に振る。

「ち、違う!そういう意味ではない、君の肉体を実験に使うという意味だ。君は幸運な人間だ、崇高な立場の人間でさえ立ち会えない素晴らしい実験に今から立ち会える。実験体としてね」

 自分に酔っているような光悦な表情で白衣の男は、これから私が世紀の瞬間に立ち会えることがいかに素晴らしいかを語りだす。

「ストップ!もういいわ結局私は人体実験に使われるってことでしょ?もう勝手にして結構どうせこのまま死ぬ予定だったんだし。で、何の実験?毒薬?病原体?それとも新しい死刑の方法でも?」

 私が呆れたように問うと、男は掛けていた銀縁の眼鏡を親指でくいとあげた。

「表向きはそんな所だ、本当の事を言えば許可など下りらんからな」

「勿体ぶらないで」

「ふざけた口の聞き方だな、まあいい聞いて驚くなよ、魂の肉体からの分離だ!!」

「……へぇ」

「なんだその反応は!まあ仕方ないか、ただの人間にはこの実験の素晴らしさは理解出来ないだろうからな。君の肉体から魂を抜き出す簡単に言えばこうだ。詳しいことはホラ」

 白衣の男は心底馬鹿にしたような表情でそう言い放つと同時に、紙を私に向かって放り投げた。手錠をしたままでは紙を掴むことは出来ないので床に落ちた紙を見る為に体を屈めると同時に鈍い痛みが走った。
 <肉体と精神の分離による半永久的な生命維持>記憶が落ちる寸前そんなフレーズが見えた。



「安心したまえ実験に痛みはない、目が覚めたら君には新しい世界がやってくる」

 男の声がした。先ほどの白衣の男の声だと理解すると同時に視界ははっきりとするが違和感がそこら中に有り過ぎて文句を言ってやろうとして気が付く、声が出ない。いやそれどころか体が動かない、というか瞼を開けた感覚すらない。


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