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陽だまりの詩
【純愛 恋愛小説】

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陽だまりの詩 16-7

病室に入ってすぐ、奏の後ろ姿が見えた。
窓の外を見ている。

「…奏、久しぶり」
「……今日は…雨でも…」
奏は何かをつぶやいていた。
「奏?」
細い肩を叩く。
「…明日はきっと…陽の光が私を包んでくれる……」

たどたどしい口調だったが、それは確かに歌だった。


何ヶ月か前、俺は美沙が口ずさんでいたのを覚えていた。
美沙に、その歌どうしたんだ?と訊いてみると、美沙はこう言った。

奏に教えてもらったの。陽だまりの詩、っていうんだって。


奏がその歌を口ずさんでいるのを見たのは初めてだった。

「なあ奏、その歌、俺にも教えてくれないか?」
「……」
すると奏は歌うのを止めて、俺のほうを向いた。
「…!」
その顔にぎょっとしてしまう。
奏の顔は、すっかりやつれて色を失っていた。
目は虚ろで、ここに意識はないように見える。

奏の心が壊れた。

お父さんの言ったことは間違いではなかった。
「奏、俺だ、春陽だよ。久しぶり」
「…お久しぶりです。今日は美沙ちゃんは一緒じゃないんですか?」
「…え?」

そうか…奏は、美沙が死んだことを認めていない。
さっきまでの俺と同じなのだ。
いや、俺よりも酷い状態かもしれない。

「奏、美沙はいないよ」
「…じゃあ検査なんですね…早く遊びたいな…」
ずっとこの状態なのか…きっとお父さんも手に負えないのだろう。

一旦病室を出る。
「…ひどいですね」
「…実はな、医者には精神科の診療を受けることを進められている」
「…え」
「そこまで深刻とはな…参ったぜ」
「あの…俺達兄妹のせいで…」
「なに言おうとしてんだ」
くしゃっと髪を握られる。
「こっちはお前らに何度も助けてもらってんだ」
お父さんは溜め息を吐いて歩き出した。
「暗くなるまでには戻るから、頼むぞ」
いつかのように、片手を上げて去っていった。


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