還らざる日々〜last〜-15
翌日、警官が一生を訪ねて来た。昨日の件だ。
だが、彼は〈全く知らない男に襲われた〉と、答えるだけだった。
警官は不可解な表情を一生に向ける。
「近所の方は女性だって言ってるんですがね…」
「いえ、確かに長髪で遠目にはそれらしく見えたでしょうが、間違いなく男です」
その日からの数日、警官は一生を訪ね、同じ質問を繰り返した。
だが、彼も〈見知らぬ男だった〉と繰り返すだけだった。
やがて、警官も諦めたのか〈では被害届けを出して下さい〉と伝えたきり現れなくなった。
その日の夜、一生は尚美に電話を入れた。そして、聡美の事を話して彼女に非礼を詫びた。
尚美は自分の方がいくら謝っても謝り切れないのに、その自分を許してくれた上に〈自分が到らなかったせいだ〉と言ってくれた一生に感謝した。
さらに、一生は尚美に言った。
「また、オマエとやり直したい…」
「……あの人は？」
「別れた。と言うか聡美…彼女は夢を叶えるために旅立った。
オレは必要ないんだ…」
尚美は、気持の表面では一生を拒否していた。
〈二股を掛けてた上に、本命が居なくなったから乗り換えるような男なんて〉と。
だが、心の奥底には、今すぐにも飛んで行きたい自分があった。
しかし、一生はそこまでの思いはなかった。
聡美との燃えるような恋を終えた今、同じ事は今後起こりえないと思っていた。
ただ、今の脱力感を埋めるのに尚美が必要だと考えていたのだ。
〈生涯を共にしたいと思った女と別れたからといって、それ以外の女と共にしたいとは思わない〉
尚美とは、それほど続かないだろうという気持ちが、心の何処かにあった。
ところが、一生の予想を反して尚美との付き合いは紆余曲折を経て、１０年間という歳月が流れるのだった。
───
〜エピローグ〜
聡美と別れたひと月後。一生は地元のガス会社に再就職した。
色々な会社の面接を受けて事業概要を担当者に尋ねたが、〈未利用エネルギーの利用開発〉という新規事業に惹かれて就職を決めた。