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桜の木の下で
【学園物 官能小説】

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桜の木の下で-14

それからそのクラスでいじめが起きることは無かった。
あたしはと言うと、初めのうちはなんだか皆の空気がよそよそしくて辛かったけど、そこは子どもだったからだろう、皆と仲良く話せるようになるのにそんなに時間はかからなかった。
そして、そんなあたし達を深く、強い絆で結び直してくれたのは……そう、長野先生。
あたしの学校では、毎年12月の終わりに、「クリスマス演劇会」という行事があり、毎年4年生以上のクラスが10分〜15分程度の劇やミュージカルが行われている。
先生があたし達に提示したのは、『ワクワク探検隊』というある歌がメインの演劇だった。
それは、どんな願いも叶えられるという「光の輪」を探しに四年生のグループが冒険に出るお話。冒険に出たものの道に迷った時、仲間で力を合わせて問題を解決し、自分たちのつながりこそが光の輪であることに気づく話。
先生がなぜその話を選んできたかは明白だった。あたし達に気づいて欲しかったんだ、友達の素晴らしさを……
それが見えすぎて、最初はみんなも遠慮がちに演技の練習や、歌の練習をしていた……だけど、先生はまるで魔法のようにそんなあたし達の意識を変えていった。
先生は普段はとても温厚だったのに、その劇の練習をするときはまさに鬼監督だった。
「違う違う!もっと心をこめて、自分が台詞を言う時は『自分が主役だ!』て強く思って前に出るんだ!」
「そんな口の開け方で声は届かないぞ!」
最初は練習が終わるだけでグッタリしていたみんなも、やがて先生の本気に触れ、だんだん練習に充実感を覚えるようになった。
あたしは、ちょっと弱気だけど星の位置で方角を知ることができる女の子の役だった。
どっちに行けばいいかで周りが喧嘩になった時、それを止めて、星を見上げて一言。
「待って、みんな!ね、星を見て?あそこにほら、北斗七星と、カシオペアがあるわ。だから、あっちが……北。あたし達が住んでいる街は海が北にあった……つまり、あの星を目指せば……」
短い言葉だったけど、あたしはこれを何百回も練習して、自分のものにした。



そして迎えた本番当日。
どれだけたくさんの人に見られても、緊張せずに自分の役柄を演じきる自信がついていた。
同時に、それぞれの役を本当に思い入れを持って役に臨めるようになっていた。後にも先にも、あんなに演じることに本気になったことは無かった気がする。
……まぁ、その後だってたくさんの男の前で演技はしてるけどね。もしかしたら、そういうところの役者魂はこの時に身についたのかもしれない。
てわけで、それくらい皆が自分の役に徹し、劇は順調に進んでいった。
劇は大成功。あたし達は男子も女子も関係なく抱き合って、涙を流して喜んだ。
そこから、クラスは本当に一つになった。



卒業式じゃなくて終了式にあんなに泣いたのも、四年生の時だけ。
終了式の日、つまりあたしが四年生でいられる最後の日……あたしは長野先生と二人きりになれるチャンスを待った。
クラスのみんなもなかなか帰りたがらず、目を真っ赤にした長野先生とやっと二人きりになれたのは下校時刻から一時間も経ってからだった。
「島川さん、まだ残っていたの?島川さんも帰らなきゃ。」
「うん……」
「……島川さんには辛い思いもさせたね。あの時は早く気づいてあげられなくて本当にごめんな。」
あたしはかぶりを振って答えた。
「ううん、いいの。みんなとは仲直りできたし、たくさん思い出もできたし。」
「そうか、良かった。」
長野先生はあたしの頭をくしゃくしゃっと撫でてくれた。


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