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陽だまりの詩
【純愛 恋愛小説】

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陽だまりの詩 13-1

今日も勤務時間を終えて真っ直ぐに帰宅する。

前に風邪をひいて以来、奏とは会っていない。

美沙のところに行く回数も激減した。

なんだか無気力だ。

いや、それは言い訳に過ぎない。

あのとき奏の見せた悲しそうな顔が、今の俺を迷わせている。


もう冬がすぐそこまで近付いていた。




***

「あの、美沙ちゃん、すこしいいですか?」
「うん」
二人は病院の中庭に設置されたベンチに腰掛ける。
最近はあたしが奏のリハビリに付き合っていた。
今はその帰りだ。
話があるのか、わざわざ二人は寒空の下に出る。
「奏、震えてるけど大丈夫?」
あたしは奏の手を握ってやる。
「大丈夫です…でも、もう寒くなってきましたね」
「そうねー」
「……美沙ちゃんは春陽さんのこと好きですか?」
「ぶっ」
「?」
突然話が核心に変わったので、あたしは含んでいたコーヒーを吹き出した。
「けほっ、けほっ……それはどういう意味で?」
「一人の男性としてです」
「……っ」
あたしはこのとき悟った。
兄貴のやつ、また何かやらかしたわね。
「なにかあったの?」
奏はしゅんとして小さく言った。
「キスしようとしたら、止められちゃいました」
「キッ…あんたいつの間にそんな子になっちゃったの」
これは予想外。
「私は春陽さんの気持ちを確かめたくて…でも断られちゃったし…私…やっぱり…」
最近の兄貴、ヘタレ属性になっちゃったからなー。
でもきっと、断る理由があるはず。
兄貴はそういうやつだ。

それにしても、奏の落ち込み方も尋常じゃない。

「奏、落ち着いて。兄貴、理由は言ってた?」
「リハビリが終わってから…って」
「…」
「私…嫌われちゃったんですかね…やっぱり私より美沙ちゃんが…」
「奏!」
「…はい?」
あたしの大声に奏は驚いたらしい。
「兄貴はバカだけど、そういうのは大事にするわよ」
「…」
「二人の約束、きっと大切にしたいのよ」
「……」
「そうじゃないと、兄貴なら確実にもう奏を押し倒してるわ」
フフン、と笑ってやる。
「……美沙ちゃんは春陽さんのこと好きなんですよね」
あれ、流されちゃった。
「…あたしは二人の味方。いや、ちょっとだけ奏贔屓のね」
あたしは笑って奏の頭を撫でてやる。
「頑張れ」
「……はい、ごめんなさい」
「あ、でも二人が結婚したらあたし奏の妹かー」
「へっ?」
「よろしく、お姉ちゃん」
「……えへへ」


兄貴の真意はわからないけど、今はこうやってフォローしつつ、奏を励ましてやるしかない。
ここ最近はまったく姿を見せないし。


本当に困った兄貴だ。


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