光の風 《風神篇》後編-9
「何！？」
後ろを振り返っても誰の姿もない。リュナは慎重に辺りを探った。そして今の振動の正体に気付く。
「カルサの力？」
カルサの力に包まれていく感覚、彼は結界を張ったのだとすぐに分かった。大地や大気を揺るがす力、これほどまでの力をカルサは持っている。
「これが皇帝の力…？」
そう呟いた後、少し考えこみ、気持ちを切り替えた。胸の前で手を合わせ風を生む。何かの気配を察知したのかリュナは顔を上げ、一方向を見つめた。
「こっちね。」
風を打ち消しリュナは再び走りだした。ほんの数時間前までは起きることもままならない様子だったのに、今ではそんな事を全く感じさせなかった。
彼女が走る道はいつもと変わらない姿。しかし窓の外は戦火に包まれている。
リュナは風を感じ、心を締め付けられる思いだった。悲鳴が聞こえる、命の燈が消えていくのを感じる。
もし、彼らの目的である真実が自分の事であったら。もし、自分の存在が戦いの火種となっていたのなら。自分はどうしたらいいのだろうか？
自分の知らない真実がレプリカの中にあるというのなら、それを突きとめなければならない。リュナはレプリカを求めて走っていた。
レプリカを包む風は人とは違う。それを探し求めることはリュナにとってわけない事だ。間違いなくこの道の先、行き着く場所に彼女がいる。
腕を振り、必死にレプリカを目指して走り続ける。
視野の中に入り込む有り得ない姿、リュナはそれを確認すると表情を歪めた。
「こんな所にまで！」
やがてリュナの振りかざした手から風が生まれ魔物を切り裂く。しかしそれは単体ではなく、進む程に数を増していった。
信じがたい光景にリュナの足も止まる。魔物が多くこの場にいるのもそうだが、この先にレプリカがいるとしたら？
いま彼女はライムとの戦いで受けた傷がある、とてもじゃないけど戦えるとは思えなかった。
目の前でうごめく魔物の群れにリュナは臆しない。
守らなければ、いまレプリカを救えるのは自分しかいないという思いで満ちていた。こぶしを握り、深呼吸をして自分を奮い立たせる。
気合い入れと同時に生まれた風はリュナの体を囲うように強く吹き荒れた。強い眼差しは前だけを見つめる。魔物達の視線もリュナに集まった。
「ここから去りなさい。でないと斬るわよ。」
リュナの言葉を聞く訳でもなく、魔物達は一匹が走りだしたのをきっかけに一気にリュナを目がけて走りだした。
リュナが眉をひそめ、一筋の風が通り過ぎた瞬間。
次々と向かってきた魔物達のリュナの横を通り過ぎる姿は刻まれたものだった。