光の風 《風神篇》後編-12
「レプリカを救護室に！」
サルスが力なく顔を上げる。リュナはそんなサルスの頬を勢い良く叩いた。
パシッ
いきなりの出来事にサルスは放心状態になりながらもリュナの方に顔を向け直す。
「早く救護室に！！」
リュナの声に我に返ったサルスは分かったと返し、走りだした。サルスと同じ様に榎もそれについていく。サルスの足音が遠退いていくのを背中で感じながら、リュナは涙を流していた。
大粒の涙が次から次へと溢れてくる。リュナは涙を拭うと怒りをあらわにして前を向いた。
もし、この状況がすべて自分のせいで起こったのだとしたら。
「桂、カルサに伝えて。私は私の戦いをするって。」
リュナは改めて桂の方をみて言葉を続けた。
「お城をお願い。」
その瞬間、リュナは自らを風に包み姿を消した。
そこには桂だけが取り残されてしまった。
城内には見たこともないほど重い空気が立ちこめていた。空も低く暗い、リュナは再び城の屋根の上に登り城下を見ていた。
いくつも人や魔物が倒れている。それでも闘う声は枯れる事を知らない。リュナの髪は闘気に満ちた風に揺れていた。
「貴方達の望みは何？」
リュナは背中で問い掛けた。いつのまにか彼女の後方には見覚えのある人影がある。
「セリナ。」
その言葉をリュナは背中に受けた。
「セリナという子を探しているのよ。」
リュナはゆっくり振り返り、向き合った。その目に映ったのは黒く長い髪を風に揺らせたロワーヌだった。これは少し前に体験した場面と似ていた。
リュナとロワーヌの目が合う。
「貴方がセリナ、私はそう確信しているわ。」
リュナの表情は変わらなかった。それは予期していたことなのかもしれない、少なくとも彼女には覚悟があった。
「セリナとは何？」
リュナの言葉にロワーヌは微笑んだ。
「私の娘よ。」
風が消えた。