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「ろうそく貰い」
【純文学 その他小説】

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「ろうそく貰い」-1

これは、私が幼かった頃に住んでいた坂のある街での話である。


今では、すっかり廃れてしまったが、私がまだ子供だった頃には七夕の夜に「ろうそく貰い」と言う行事が行われていた。
小さな灯籠を手に7〜8人のグループになって、蝋燭やお菓子を貰いに街を回るのだ。
家が貧乏だったため、蝋燭を持ち帰ると家族は喜んだが、私は滅多に口に入らない甘いお菓子が貰える方が嬉しかったのを記憶している。

その年の私は、グループのリーダーの発案で一人で坂の上にあるお屋敷を訪ねていた。
バラバラに家を回ることでより多くの戦利品を効率よく集めようと言うのである。

ビィーッ!

ブザーを鳴らすと奇妙な音が屋敷の中を反響していくのが聞こえた。
しばらく時を置いて出てきたのは若い綺麗な女だった。
街明かりに反射して肌の白さが浮かび上がる。

「こんな時間にどうしたの?迷子かしら?」

どうやら彼女は「ろうそく貰い」を知らないらしい。
困ってしまった私は囃子唄を歌うことも出来ず、「ろーそくいっぽん頂戴な」と小さく呟くだけで精一杯だった。

「ろうそく?」

首を傾げられて増々顔が火照るが、逃げ出すことも出来ずにその場にじっとしているしか出来なかった。

「なしたか?」

その時、奥から男が出てきた。
家の中で、しかも夜だというのに男はサングラスをかけ、紫色の開襟シャツを身につけていた。

「なんか蝋燭が欲しいんだって」

出てきた男に女が告げる。
「もう、いいです」と伝えたいのに私の口はどうしても動かなかった。

「蝋燭ぅ?」

男が胡散臭げに私の方を物色する。

「あぁ…。今日は七夕だっけか」

どうやら、私の手にしていた灯籠に気がついたらしい。
少しホッとした面持ちで顔を上げるとニカッと笑った男と目が合った…ような気がした。

「あぁ。蝋燭くらいなんぼでもくれてやる。ちょっと上がって待っとけ」

そう言うと男は再び奥へと引き返していく。

「だって。良かったね。おいで」

ニコッと微笑む女に誘(いざな)われて私も恐る恐る奥へと踏み出した。
言われるままに広間の椅子に腰をかける。
更に奥の方からガサガサと何かを漁る音がする。

「この日に蝋燭を子供にやんねぇと顔をかっちゃかれんだ」

と説明する男の声が聞こえる。

「かっちゃく…?」

女はどうやらこの土地の者ではないらしい。
確かに、この辺りでは珍しい綺麗な容姿と言葉遣いをしていた。

「うちの方で、ホレこうして、引っ掻くって事よ」

男が女を引っ掻いたのだろう。キャッキャとはしゃぐ声がする。

しばらく待っても二人がこちらへ来る様子はなかったし、出来るなら他の家も回りたかった。
そろそろと腰を浮かしたところで、女が皿を手に現れた。


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