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水泳のお時間
【その他 官能小説】

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水泳のお時間〜2時間目-9

「まさかずっとそこにいたの?はやくプールからあがらないと…風邪ひくよ」
「……」
「桐谷」

瀬戸くんがもう一度わたしの名前を呼ぶ。
だけどまともに瀬戸くんの顔を見られそうになくて、わたしは彼に背を向けたきり振り返らなかった。
そのままギュッと目を押しつぶる。
…お願い。呼ばないで。
だって今の顔、瀬戸くんに見られたくない…。

「桐谷」
「…ゃっ…」

だけどその瞬間、後ろから水に飛びこんだような大きな音がして、強引に肩をつかまれた。
そしてそのまま瀬戸くんに無理やり前を向かされてしまい、わたしはとっさに顔を背ける。

「……泣いてるの?」

わたしの顔を見て、瀬戸くんが口を開いた。
だけど彼の問いに、わたしは俯きながら何度も首を横にふってみせる。
違う。泣いてない。
泣いてなんか、ない…

「…っ、ひっくっ…」

だけど強がれば強がるほど悲しさが込み上げてきて、わたしはその場で俯いたまま泣き出してしまった。
そんなわたしを瀬戸くんは何も言わず見つめてる。

イヤだよ…わたし、瀬戸くんにこんな姿見られたくない。
こんな事くらいですぐ泣き出してしまう姿なんて、瀬戸くんに見られたくないのに…。
だけどそう思う気持ちとは裏腹に、涙は止めどもなくあふれ出てきて…わたしはとっさに両手で顔を覆った。

「…っ…?」

だけどその瞬間、その手をやんわり引き剥がされてしまったかと思うと、瀬戸くんに抱きしめられた。
突然のことに、思わずハッと目を見開いて固まるわたし。
そのまま何も言えず戸惑っていると、ふ…と瀬戸くんの抱きしめる腕が強くなった気がした。
わたしは思わず彼を見上げる。

…?
瀬戸、くん…?

「あ、あの…」
「やっぱり泣いてんじゃん。眼、赤いよ」
「え?あ……」
「それなのに、泣いてないなんて言ったりして、桐谷はうそつきだな」
「……」

瀬戸くんの言葉に、わたしは何も言えない。
そしてそのまま再び俯いてしまったら、瀬戸くんがポツリとつぶやいた。

「…何でだろうな。頭では分かっているのに、桐谷を困らせる事ばかりしたくなる。本当は笑ってほしいのに、どうして俺はいつも桐谷を悲しませる事しか言えないのかな」
「…え…?」

思いがけない瀬戸くんの言葉に、わたしはとっさに顔をあげる。
すると瀬戸くんは一瞬どこか切なげに微笑んでみせたかと思うと、わたしの体からゆっくりと手を離した。

「今日の練習は本当にこれで終わりだから。家帰ってゆっくり休んで」
「……」
「また、明日な」

そう言い、瀬戸くんは頬を伝っていた涙を指でそっと優しくすくいとってくれたかと思うと、頭をポンポンと撫でてくれた。
そして昨日と同じように、わたしをプールから引き上げてくれると、背を向けて歩き出す。


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