陽だまりの詩 9-2
＊＊＊
「なるほどね」
奏は事の一部始終を美沙に話した。
美沙は腕を組んでしかめっ面をしている。
「お父さん、何してる人なの？」
「…詳しくは知らないけど、現場監督さんをしてるみたい」
奏は親の仕事を詳しく知らないのか…
それにしても、どう考えてもあっちの人かと思ったぞ…
まあよくわからないが、気の強い性格や手がすぐに出るところはそういう仕事からきているらしい。
「…監督っていっても力仕事の偉い人だから、やっぱり兄貴みたいにひ弱そうな男は嫌いなんじゃない？」
「…」
そりゃそういう職種の人にはかなわないが、それなりに鍛えてるつもりだぞ俺は。
「ましてや歳の差がハンパじゃないし」
それはあるかもしれない。
「奏、お父さんっていくつだ？」
「三十四歳です」
嘘だろ…
高校生の娘がいる三十代の親父って…
やっぱりすげえ若いじゃんか…
「若い父親なのに十六の娘がそんな男に盗られるなんて酷だもんね」
「…」
「…」
重い空気が漂う。
やはり俺じゃ…
あまりの事の大変さにめまいがする。
「大丈夫です！」
奏が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「奏？」
「お父さんは…きっと春陽さんの良いところをわかってくれると思います！」
「奏…」
そうだ、めげることはない。
奏を好きになった以上、お父さんに理解してもらうしかないんだ。
ありがとう、奏。
＊＊＊
奏の部屋を後にすると、二人で美沙の部屋へ向かった。
「兄貴」
「ん」
「父親って、あんな人もいるんだね」
「俺らの親父はあんな人じゃなかったしな」
「…うん」
「ってお前、親父の記憶あるのか？」
「…いや、笑ってる顔だけ」
やっぱりそうだよな。
「でもあの顔からして、とてもじゃないけど奏の父親とは真逆ね」
「そうだな」
「兄貴、打ち解ける自信はある？」
美沙は心配しているのか馬鹿にしているのかよくわからない顔で言った。
「…まあ、なるようになれだ」
今までの俺では挫けていた。
なんとなく自分自身、奏の性格に似てきたような気がした。