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陽だまりの詩
【純愛 恋愛小説】

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陽だまりの詩 6-9

***

「俺はあっちで寝てるから。こっちで適当に布団敷いて寝てくれ」
俺は自分の寝室を指して言うが、アキはぶすっとしている。
「話できないよ」
そうだった。
「じゃあ、俺の部屋に布団敷いて寝るんだな」
俺は今更、アキとどうにかなろうとかは全く考えていない。

今の俺には奏がいるから。



電気を消すと二人は横になり、共に天井を見ていた。
俺はベッドで寝ているから、少々高いが。
「で、見合い相手は」
「…昔話からしようよ」
「だめだ。俺は疲れてる」
もー、と小さくアキは不満を垂らすが、すぐに話を始めた。
「まあ結論から話すと、逃げた」
「逃げた?」
「お見合いも成功して二人で暮らしてみることになったんだけどね、トラブルがあって」
「なにがあった」
俺はスイッチが入った時の奏のように淡々と問い続ける。
「一言で言うと、暴力」
「…」
思いがけない衝撃的な理由だった。
「見てみる?」
俺は黙って頷く。
アキは体を起こしてシャツを脱ぐ。
そして腕をあげる。
月明かりに照らされた白い腕には、数ヶ所あざがあった。
「…」
「引くでしょ」
「その男にな」
「…両親に言えば一発で解決するんだけど、相手は銀行マンだし。体裁ってものがあるんだって」
どうやらアキは、一度行動を起こそうとしたようだ。だが、相手に体裁どうのと言われたのか。
「…どうしたもんかね」
「どうしようもないかな」
「…」
「でも、こっちで仕事見つけたし、しばらくはいるつもり」
「そうか」
そう言うと俺は寝返りをうつ。
「ハル」
突然、澄んだ声で呼ばれる。
「なんだ?」
「そっちに行ってもいい?」
「…」
まさかそんなこと言い出すとは思わなかった。
「ハル、私、あなたと離れたくなかったよ…」
「…」
それは俺だって同じだ。
「ハルだってそうだったんでしょ?」
「ああ」
「じゃあ…」
アキは立ち上がると、ゆっくりとベッドに乗って布団に入ってくる。
キシッ、と音を立てるベッド。
「ハル…」
俺の背中にすり寄ってくるアキ。


その時の俺の頭の中には、奏のえへへ、と笑う顔だけが浮かんでいた。


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