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燦然世界を彩る愛
【純愛 恋愛小説】

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燦然世界を彩る愛-4

「私はお母さんのこと、嫌いじゃなかったんですよ。でも『ワタシ』は許せなかったんでしょうね。だって、痛いのは嫌ですもん。辛いですもん」
掠れた声が空気を伝う。
現状を打開するために彼女が取った行動は、確かに短絡的で人道から外れていたかもしれない。
しかし、それを誰が責めることができる?
ひとりぼっちで戦っていた彼女を、誰が責めることができるんだ?
「でも、ずっと押しつけてきた私も悪いけど、せんぱいを傷つけたのはむかつくなぁー」
頭をぽりぽりと掻いて、泣きそうに笑った。
「私はワタシが許せない。ワタシも私が許せない。ずっとずーっと鬼ごっこなんです」
―――彼女の顔に去来した表情を、どう表せばいいかわからなかった。
言葉の奔流から抽出された痛みや苦しみが、鋭利な刃物のように突き刺さる。
何も言えずにつっ立っていた僕はどんな顔をしていただろう?
「せーんぱいっ」
にこり、と笑って彼女は言った。
「私を殺してください」



歪な現在が、終わる。
映画の後にスタッフロールが流れるように、終わる。
けれど、それは物語だからだ。
現実はどうだ?
スタッフロールの後にも『今』が続いていく。
メビウスの輪のように、ぐるぐるぐるぐると。
延々と巡る人の一生は恋に似ていた。
恋は螺旋を描いて人の心を辿る。繊細なガラス細工のようなそれを、容赦なく踏みつけていく。
その足跡の大きさはどれも均一で。君だけのもの、君だけしかここは歩けないから。
もっと汚して。もっと傷つけて。その傷のカタチが君しか刻めないように、楔のように打ち込んで。
僕はそう望んだ。

ひやり、とした金属独特の感覚が手に伝わる。
バールを力任せに動かす。車上荒らしにでもなった気分だ。
噴き出す汗を拭う。つい最近咎めた彼女の行為を僕が能動的にやっているんだから、不思議なものだ。
背後には興味津々に扉を見つめる杉坂。
きぶつはそん、と彼女が呟くのと扉が開くのは同時だった。
僕より先に足を踏み入れ、嬉しそうに駆け回る。
「わぁー、屋上ですよ屋上ですよ!」
「本当、お前って子供みたいだな」
「子供じゃないです!胸だってちゃんとありますっ」
「Bカップすらないちんちくりんが何を言う」
「…うぅ」
杉坂は自分の胸に手を当てて、こちらを睨みつけた。
「結局先輩はロケットが好きなんですね。バスト7万センチぐらいの女がタイプなんですねっ」
すごいな、体と胸のどっちが本体かわからない。
へんたいだー、と叫びながら杉坂は再び駆け出した。
「本当、子供みてぇ…」
苦笑混じりに呟く。
汗で額に張りついた髪をかきあげると、手に微かな痛みが走った。どうやらバールの先端を引っ掛けて怪我をしていたようだ。うっすらと血が滲んでいる。
白い手に、赤く、血が。
―――ずっとずーっと鬼ごっこなんです
顔を上げ、闇夜の中に彼女の姿を探した。
いつの間にか立ち止まっていた彼女は頭上に広がる空を見上げていた。僕も同じように空を仰いだ。
曇っていて、星が一つも出ていなかった。月明かりさえもなかった。
まったく、世界ってやつは残酷だ。最期くらい綺麗な夜空でも見せてやれってんだ。ちくしょう。
それでも杉坂は空を見上げていた。
空虚な空を見つめたその瞳には、何が映っているのだろう?
僕の視線に気付くと、杉坂はにっこりと笑った。


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