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燦然世界を彩る愛
【純愛 恋愛小説】

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燦然世界を彩る愛-2

「せーんぱいっ。私観たい映画があるんですけ―――」
「おごらない」
「だ、誰もまだおごってなんか言ってないですよ!えっと…タイトルがですねー」
杉坂が口にしたのは、特撮を全面的に主張した今流行りの洋画だった。
「あぁ、あの特撮映画ね」
「SFXがSEXにしか見えないせんぱいの眼球なんか腐っちまえばいいんです」
「…俺は一言もそんなこと言ってないぞ」
水と土の匂いを孕んだ風が河原から凪いだ。二人分の影法師が揃って、伸びていく。
ぶんぶんと手を振り回して歩く杉坂は幼い子供のようだった。
揺れる振り子を掴むように、その手を握ってみる。
「…こ、心のヒートアイランド現象です」
顔を真っ赤にしてぼそりと呟く。
「お前ってかわいいな」
「うるさいです!こんなんで局部おっ起ててる先輩なんか死んじまえばいいんすよ!」
「いや、起ってねぇし…」
いくら恥ずかしいからってこの口の悪さはどうにかならないものか。
まぁ、そういうところも含めて僕は彼女を好きになったのだけれど。
「マスコットみたいに常に近くに置いときたい感じだな」
「それは心のファシズムです!独禁法にもひっかかりますよ!」
「またわけわかんねぇことを…」
ばっ、と手を離すと急に駆け出した。
「ちょっとあの夕日に向かって走ってきます!」
だだだっ、と走りにくそうなローファーでスタートを切った。
彼女は小動物のようにちょこまかと動く。顔つきも幼いし背だって低い。頻繁に中学生に間違われることを本人も気にしていた。
小さな彼女から伸びる細長い影が木々を縫って躍動する。そのシュールレアリズムな光景が僕の瞼に焼きついた。
夕日の架る橋の上で、杉坂はこちらを振り返る。
「せんぱーいっ!こーゆーのーっ!青春っぽくないですかぁー!?」
大きく手を広げて夕風を受け止める彼女は、まるで舞台の上で踊る役者のようだった。
陽を飲み込む河原も、立ち並ぶ新緑の木々も、橙色の色彩も、それに照らされる彼女の髪も、すべてが―――。
世界は、美しい。
きらきらと輝き、眩しいほどに。
僕は自転車を停め、杉坂に歩み寄る。
「この世界が綺麗なのはせんぱいがいるからです。せんぱいがいくら汚くても、それはせんぱいだから綺麗なんです」
―――無茶苦茶だった。
荒唐無稽な、支離滅裂な、とんでもない理由だった。けれど、その言葉は何よりも美しく、輝いて。
「わぁ、風がすごいです。先輩風がびゅうびゅう吹いてます」
「使い方、間違ってるからな」
「台風一家は恐ろしい化け物なんです。きっと地獄先生でも倒せない最強最悪の妖怪なんです」
恐らく、台風一過のことを言っているのだろう。
「長男が風の通り道を作って次にドSの長女が追い撃ちをかけるんです。そこからさらにお母さんが疾風怒濤のようになだれ込んできてトドメにお父さんがぶっこんでくるんです」
手をぶんぶんと振り回す。
「台風一家からも、守ってくれますか?」
身振り手振りで台風一家の強さを表そうとしていた彼女が、なんだかとても愛おしくて。
「あぁ、守ってやる」
僕は暴風雨と対峙するイメージを浮かべてみた。イメージ上の僕は突風にふっ飛ばされて無惨な最期を遂げていた。
「じゃあ、せんぱい」
小さな背中に夕日を背負った彼女は、柔らかく微笑み。
「また、明日です」
手を、振った。


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