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水面に浮かぶ紅い花びら
【少年/少女 恋愛小説】

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水面に浮かぶ紅い花びら-1

セピア色の部屋の片隅で旋律のずれたオルゴールが響いている。そう、それはまるで壊れた玩具の無邪気で残酷な小さいご主人様に嫌われ、捨てられてしまわぬようにという願いを込めているかの様。
一人の少年は昼間の喧騒と夜の静寂の狭間の光に彷徨い続ける。彼は偶然と必然との境界線を旅する者。
刹那的な時間に蜃気楼のようにできる歪んだ隙間に身体を滑り込ませては、彼は探す。
ただ一人の、ただ一つのアノヒトを。
だからある時あの、旋律が少しだけずれてしまったオルゴールを見つけた。それは偶然と必然の境界線上。
少年は優しく微笑み、部屋の隅で自分の存在を奏で続けていた彼を抱き上げる。彼のずれていた旋律はやがて正しい旋律を刻みはじめ、ふいに止まった。

これでもう淋しくはない。

彼はそう言って少年の腕の中に溶けていった。少年の腕の中では今でも彼が旋律を奏で続けている。
それでも少年の悲しみは消えてしまわない。手からこぼれ落ちる水のよう。視界からはなくなっても、ほら、見て。足下には君を写し出す水たまり。
だから、少年は旅をする。偶然と必然の境界線上を。きっと、失ってしまったモノを探し出すまで。それは続く。それは偶然か必然か。それとも幻影か。


水の上に浮かぶのは漆黒の髪を持つ白い服を身に纏った少女と目を見開くように鮮やかな紅の名も亡き花びら。
彼女は独りここで数を紡いでいるいつ始まったのかは分からない。気付いた時には独りここにいた。

ある時何もない、まっさらな宙から巨大な手が伸びてきて水面に漂う花びらを少女の唇に押し当て、彼女は言葉を紡ぐ事ができなくなった。しかしそれでも彼女は数を紡ぎ続ける。何故かは分からない。でもそれだけが少女の現実。
孤独と偽りの空のあいだで漂う幻の現実。

孤独とは慣れてしまっても、何処かで深く傷口から血を流し続ける。少女はひたすら数を紡ぎ、それに気付かないようにしてきた。
それはだんだん彼女の姿を楼閣に変えていった。一筋の光を宿らせていた目もガラス玉となっていく。
そんな少女の元にある時少年が降って来た。あの巨大な手と同じように何もない虚無な宙から突然、前触れもなく。彼は落ちて来た。

少女は不思議そうに少年を見つめた。こんな奇妙なものは初めて見る。
ホントウニ ハジメテナノ?
だが、何処かで何かが引っ掛かっている様だ。痛い、痛い、痛い。
螺子が巻かれていくかの様な苦痛。
オモイダシチャ イケナイヨ


少女が顔をしかめ、小首を傾げて彼を見ていると、やがてそれはゆっくりと起き上がった。

少年は目をこすり、上を見上げた。遂に来た。喜びと悲しみ、今まで眠っていた感情がドロドロと吹き出そうとしている。少年は水の中にゆっくりと立ち上がるとにっこりと笑った。
あなたは何?
少女は唇に押し当てられた紅い花びらに口付けし、やがてそれを飲み込むと笑っている少年に尋ねた。少年は目を細めゆっくりと少女を見つめた。とても懐かしそうに。
少年の奥底であの旋律が高く響きはじめる。

少年はくっくっくと喉の奥で笑うと少女の細く白い腕を優しく掴み、そのまま彼女を水面から抱き起こし、優しく腕の中の少女を抱き寄せて、包み込んだ。少女の漆黒の長い髪の中に手を差し込み、愛しそうに何度も、何度も撫でる。少年は少女の身体に絡み付いていた蔓をゆっくりと解いていく。



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