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天使の梯子 〜初恋〜
【初恋 恋愛小説】

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天使の梯子 〜初恋〜-5

それから、幾日過ぎたのか。
頭から春香の事が離れない。
いっそ、自覚しなければ良かったのだろうか……。
別に人を好きになったことは何回もある。これが初めてなわけじゃない。
なのに、なんでこんなに胸が苦しい?
こんな思いをしたのは初めてだ。
これが俺にとって、本当の意味での“初恋”だったのかもしれない。

悶々としたまま月日が過ぎ、春香の手術の日を迎えた。

その日は朝から天気が良くなく、暗い鉛色の空が広がっていた。
今にも雪が零れ落ちてきそうな空。
もうすぐ春だというのに……。

学校の窓から見える、丘の上の病院を見つめた。
手術は朝から始まっているはずだ。
どうか春香の手術が成功しますように、と祈る。

まったく勉強が手につかない。
やけにソワソワしている俺を友達は心配してくれた。


気が遠くなるほど長く感じた授業が終わり、足は勝手に病院へ向く。

丘の中腹まで来た頃。
屋上での春香の言葉が脳裏をかすめた。
俺が行くのは迷惑かもしれない。
春香は俺にもう会いたくないからああ言ったんだろう。
ましてや手術中だし。

そうだ、家族も付いているだろうし、赤の他人の俺が行ったところで何の役にも立たないよな。
邪魔になるだけだ。

遣る瀬ない気持ちでカバンを握る手に力をこめる。

その時。
一陣の風が吹き抜け、急に視界が明るくなった。
変に生暖かい強い風。
その風の行方に吸い込まれるように、病院を見上げるとまばゆい光に包まれていた。

眩しい……。
薄暗い雲の切れ間から差し込む暖かな光が、眼下の街にも降り注ぐ。

『天使の梯子って言うんだよ』
ふっといつかの春香の声が聞こえた。

―――天使の梯子。
その後、春香はなんて言ったんだ?
思い出せ。

あの時、春香は。

『天使が、光に乗って苦しんでる人を助けにきてくれるの』
――と。

その時の寂しげな、不安げな春香の顔が
脳裏をかすめる。

――春香!!


俺はかけだしていた。
病院を見つめながら。
病院の窓ガラスという窓ガラスに光が反射し、病院が神々しい光に包まれて行く。

連れていくな……!
連れて行かないでくれ!

俺はひたすら走った。病院へ続く丘の道を。

俺はまだ、自分の気持ちすら春香に伝えてないんだ。
たとえ迷惑だったとしても、俺はもう一度……春香の笑顔が見たい。


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