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天使の梯子 〜初恋〜
【初恋 恋愛小説】

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天使の梯子 〜初恋〜-4

「お礼も出来なくて……ごめんね」
申し訳なさそうに春香が言う。
春香に会えるだけで俺は嬉しいんだけど、と言えればどんなにいいか。
でも、その言葉もなんだか恥ずかしくて飲み込んでしまった。
「春香が、元気になったらその時に」

俺の言葉に春香が柔らかく微笑んで、冬の空を見上げる。

そして天使の梯子の話をしたのだった。

そして空を見上げたまま、
「私ね……手術受けることになったんだ。成功率は低いらしんだけどね」
何気なくいう春香の言葉に、俺は反応できない。

春香の母親から手術を受けなければ長くは生きられないだろう、でも頼みの綱の手術もかなり成功率が低く、今はその手術を乗り越えるだけの体力もない……ということを聞いていたから。

それでも、手術に踏み切ったのは……。
それだけ病状が思わしくないということか。

俺は唇を噛みしめる。

そんな俺の表情を見て、春香は柔らかく笑う。
「桜の海見れるかな、今度は陸君も一緒に」

つぶやいた瞬間、春香の瞳から大きな涙が零れ落ちた。
それが難しいということを、誰より身をもって知っているのは春香だ。

何も出来ない自分が悔しい。
そう思った瞬間、俺は春香の肩を抱き寄せていた。
細く、華奢な肩を。

春香は震えていた。
「春香?」
春香は下を向いたまま、搾り出すように声を出した。
「私、陸くんに会わないほうが、良かったのかなあ?」
「え……?」

一瞬思考回路が止まったように感じた。

「そうすれば……、こんなに苦しい思いをしなくてすんだかもしれないのに」

春香が何も言えないおれの胸を押し返す。
「……って、わがままなこと言ってごめんね、私が来て欲しいって言ったから付き合ってくれてたのにね。ありがとう、陸くん」

もう一度あげた春香の顔はいつもと変わらない笑顔だった。
――大きな瞳から零れ落ちる、涙以外は。

春香が病室に戻ってからも、俺は動けずにいた。そのままフラフラと近くにあったベンチに座り込む。

乾いた冷たい風が頬に吹きつける。
「さみぃ……」
手元にある春香にさっき貸していたコートを羽織った。
それにはまだほんのりと温もりが残っていた。

さっきの言葉が、もう会いに来ないで、と聞こえた。

俺は……春香を苦しめてたのだろうか。
誰よりも、大切にしたいと思っていたのに。

胸が苦しい。
なんだろう、この締め付けられるような、苦しさは。
そしてようやく気がついた。
俺は、春香のことが好きだったのだ……と。


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