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『one's second love』
【初恋 恋愛小説】

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『one's second love〜桜便り〜』-18

「俺も同じだよ、岬」
そう言って、彼は優しく笑った。
「この一年、お前を忘れようと必死だった。無駄に偏差値の高い大学に入って、さっさとここから出て行きたかった。だって、俺が好きだったこの町は、岬と過ごした時間が重なりすぎてたから。耐えられなかった。そういう意味じゃ、俺は弱い人間だったな。
……新しい生活は、新鮮だった。大学も楽しかった。今まで知らなかっただけで、考え方一つ変えればこんな世界もあったんだって。そう思った。
でも同時に、気付いたことがあるんだ」
要はそうして、二人のすぐ傍に咲いた桜の木を無造作に見上げた。
「お前は、俺の好きだった人じゃない。不器用で、危なっかしくて。か弱い人間だ。今だって震えてる。何もかもが、昔とは違う。知らぬ間に変わってしまう。あの頃の岬とは全くの別人だと思ってた。
俺はバカだから本気でそう思い込んで、盲信して、ずっと逃げてた。
…でも、駄目なんだ。
正面から向き合わなきゃ見えないこと、分からないこと。あったんだなって……。

この桜を見て、確信した。
毎年違う花を咲かせるこの桜も、その美しさは………ずっと変わらない」

要の瞳に鮮やかな枝葉が赤く揺れている。夕焼けの光までもが、零れ落ちる花びらのようだった。

「今の岬だって、俺にとっては大切な存在に変わりないんだってこと。やっと答えを出せたんだ」

岬に向き直ると、彼はゆっくりと言葉を告げた。まるで、一つ一つ確かめるように。

「嘘………」
俯く岬。苦しげな声。
「嘘じゃない」

「だって私……知らないのよ。好きな曲も、ピアノの弾き方も。
何一つ分からないんだよ?私はもう、元には戻らないんだよ?」

「岬は岬だ。関係ない」

「これからだって、あなたを覚えてる保証なんかない。もしかしたら、明日は私じゃなくなっちゃうかもしれないのよ?」

「たとえ、そうなったとしても……岬が何度生まれ変わっても、そのたびにお前を好きになってやる。自信があるんだ。それだけは、小さい頃から何年も続けてきたことだから」

嘘だ。
そんなはずない。
そう叫ぼうと、絞りだそうと思った言葉は、なぜか喉から先に、出ていかない。
……代わりに、涙がこぼれた。

「約束だ、岬。もう一度、ここからやり直そう。来年の今頃には、二人でこの桜を見れるように。俺もがんばるから。
だから……約束だ」

岬は首を振った。
力強く、頷く。
彼を、信じてみたい。
そう思ったのはなぜか自然で、不思議なほどあっさりと受け入れることができた。
口にしてしまえば不安は拭えない。今、かろうじて立っているこの危なげな道を、踏み外すことなく真っ直ぐ歩いていけるのだろうか?
いや、歩いてゆくのだ。

たとえ失われていく物が、増えていったとしても。

彼を好きだっていうこの気持ちに、嘘はつけない。

――だって、そうでしょ?私たちは、変わらなかった。
時間、環境、障害。
あらゆる困難を乗り越えて、それでも私たちは互いを想ってる。
負けたくなかっただけなんだ。


…そう、この気持ちだけは。


何度だって消えても、色褪せることなく残っていた本物の、思い出だから……。


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