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『one's second love』
【初恋 恋愛小説】

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『one's second love〜桜便り〜』-12

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店内には、ただ静寂が流れていた。
全てを話終えたナツコさんは、子供みたいにスヤスヤと寝息をたてている。けど、一度も泣かなかったナツコさんはやっぱり大人なんだろうか。
俺にはまだ、分からなかい。

相馬さんからの電話は、結局鳴らなかった。
席を立ち、店の暖房を調節してから俺はソッと外に出た。
ナツコさんが、風邪を引かないように。

街はもう、すっかり暗くなっていた。底冷えする夜闇の道は、どこか寂しくて切ない。
俺はその中を、駆けるように歩き出した。

通りの両側からは、そこかしこからポツ、ポツと灯りがともり始めている。
オレンジ色の曇りガラスの向こうには、一体どんな世界が広がっているのだろう。
きっと暖かく優しい、そんな懐かしい風景なんだろうと思った。

俺とナツコさんは同じだ。
その温もりを、誰よりも欲しがっていたはずなのに。
気付いたら捨てていた。
逃げ出したんだ。そこに侵っているのがただ怖かったんだ。

アパートに戻ると、案の定仕送りと一緒に手紙が来ていた。
母親からだった。去年からのを数えると相当な数になる。よくもまあ、これだけ親不孝者になれたものだとつくづく思う。
段ボールの中身をひとしきりあさって、手紙を開いた。いつもなら読まずに引き出しの奥にしまってしまうのだが、何故か今日は素直に封を開けた。
内容を見ると、俺は相も変わらずに親を心配させているらしい。とにかく、一度だけでいいから近い内に帰ってきてほしいとの事だった。
そこまではよかった。俺は最後に書かれた文に思わず目を留めた。


……岬が、家に来たらしい。

何か、あったのだろうか。俺は一番に彼女の容態を案じた。
会わなくなって久しく経つけど、岬は大丈夫なのだろうか。てっきり元気でやっているものだと思っていただけに、岬の名前が出るだけで不安になる。
だが、俺に彼女を心配する資格なんて、はたしてあるんだろうか。


街を出て、一人になって、誰とも連絡をとらないようになって。
そんな俺に、誰かを心配する資格なんてない。
そう思った。

手紙をしまい机の上に放り投げると、俺は横になった。
見上げる天井。
その先は、目を閉じた時のように、光の失われた世界だった。

長い沈黙の後、小一時間くらいそうしていただろうか。

不意に、電話が鳴った。

「もしもし?」
「ヨォ、久し振り」
聞こえてきたのは、野太い男の声。
この声は聞き覚えがあった。
「………波多野、先生?」
「そうだよ」
ホントに久しぶりだなあ、と波多野先生は仰陽をつけて言った。
「半年?もっと経つか。そっちの方はどうなんだ」
その後、少しだけ現状報告をした。先生らしくない先生だったけど、教え子の進路は気になるらしい。


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